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モブでいいよ  作者: ふにねこ
第二章 修行
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黒幕の影



「……つまり、侍従のマリウスによる王子を癒してさし上げるってのが目的だったみたい」


 ホノカはアリスの説明に目を輝かせていた。

 フェルはちょっと遠くを見ている。

 クリス王子は額に手を当ててうなだれていた。


「先日、城内の空気が張り詰めていたのはそういう理由だったのですね」


 グレイ小隊長がふむふむと頷いた。


「おかげで魔法省の奴らも喜んでいる」


 今日はオルベルトではなくジャックがいる。

 彼は王子暗殺うんぬんよりも指輪の効果の方に重点を置いているのを隠そうともしない。

 彼の辞書にはおべっかも太鼓持ちもないのだろう。


「親は妹さんのために使わせるつもりでマリウスに薬を渡したみたいだけど、私欲のために妹よりも自分の欲望に従ったあたりが王子クオリティって感じ」


 ゲームの強制力はどこにいった。


「ですよねぇ~」


 ホノカの目の輝きを見ていると、ゲームではなく聖女の強制力が働いたのではと疑いたくなるが、まだ変な力に目覚めていないアリスはその説を否定する。

 聖女に世界を変革させるような強制力があったなら、とっくにアリスが聖女に成り代わっているはずだ。


(いやまて、成り代わっていると言えないこともないから、強制でなく影響程度なのかしら)


 力に目覚めることはないが聖女と呼ばれる立場にいることには違いない。


「ああ……クリス王子の前でオルベルトさんに組み伏せられたマリウスさんの羞恥と屈辱にまみれた顔が見たかったなぁ……」


 ぼそりと呟かれた本心からの言葉に思わずアリスは体ごと引いた。

 幸い男性陣とは距離があったのでホノカが何を言ったのかは聞こえていないはずだ。

 ちらりと彼らを見ると、それぞれに真剣な顔で話をしていた。


「薬の入手先ですが、魔法使いから手に入れたとのことです。時期はホノカ様とアリス様が知り合った後くらいです」


 フェルナンが事件の背景を淡々と報告する。

 ひいきにしている商会のパーティーに顔を出した際に知り合った魔法使いから惚れ薬を入手し、王子に望まれた形で娘と結婚させ、娘は幸せな結婚と将来の安泰、そして自分は王家に恩を売って野望という名の夢が広がるという一石二鳥のよくある話だった。


「その魔法使いですが、商人は全く覚えがないそうです。周囲の人間にも聴取しましたが、だれ一人、覚えている者はいませんでした」


 つまり、捜査はそこで手づまりで、事件の背景はわかったが毒の入手ルートについてはさっぱりわかっていないということだ。


「引き続き、魔法使いの行方を捜索しております。それとは別に魔法省の方に毒の分析と成分から入手ルートの特定を依頼しています」

「ああ、それはちょっと難航しそうだ」


 ジャックがため息とともにフェルナンに言った。


「鑑定の結果から言えば、魔法省にいる奴ら程度じゃあの薬は作れない。それ以上の腕を持っている奴は限られるが、そいつらでもない」

「断定できる理由は?」

「……胸糞悪くなる材料を非公開で集めるのは無理だ」


 この時点で薬を飲まされていたクリス王子の顔が真っ青になる。

 何を想像しているのかホノカの顔は赤くなっていた。


「裏の組織が関わっている」

「それってウチを狙った秘密組織だったりする?」

「いや、あれは魔術系の秘密組織だろ。今回は薬物系だから違う」

「薬物だって魔術で使うでしょう?」

「使うが、どちらかといえば活動するための資金源だから、ああいった特定上級薬物よりは不特定多数が扱う下級薬物の方が実入りがいい」


 大金を一発で稼ぐか、小金を細く長く稼ぐかの違いだが、実際は後者の方が実入りはいい。

 前者は足が付きやすく客が少ないのでその場限りだが、後者はいくらでも客を増やすことができるので安定した金を常に手にすることができるのだ。

 ちなみにジャックのいう特定上級薬物というのは主に毒物、下級薬物というのは常習性のある麻薬だ。


「父さんに情報を流してもいい?」


 アリスはフェルナンに向かって尋ねた。


「構わない」


 黒幕の影すらつかめていない情報なのだから役に立つとは思えないのでフェルナンは許可した。

 アリスは扇を口元にもっていき、秘かに笑みを浮かべる。

 魔法使いの事を覚えていないと言った商人達。

 果たして父はいかように彼らの記憶をよみがえらせるのか。


(ハルがいるから大丈夫だとは思うけど……)


 どんな手段を講じるのかはわからないが、生死に関わるようならハルが止めるだろう。

 あとはロッシにそれとなく薬を扱う組織の話を調べてもらうのが一番平和なルートかもしれない。

 アリスはグレイに視線を移した。


「申し訳ありませんが、ウチの従業員が来たら教えていただけませんか?」


 訓練所に顔を出すのはルークとジョンだ。


「わかりました。ですが聖女様、外出をなさるなら私かランスに一言お願いします」


 周囲が凍り付きそうなほどきれいな笑顔でグレイが言い放った。


「ハイ……」


 城を脱走するホノカ以上に行動力があると知っているグレイの注意にアリスの背筋がぴんと伸びる。


「よろしくお願いいたします」


 行動を読まれていると察したアリスは殊勝な態度で頭を下げた。








 久しぶりにアリスにあったホノカのテンションは無駄に高い。

 ジャックを残し、他のメンバーは用事があるので退出していった。

 護衛のはずのジャックはソファーに横になって寝始めた。


「それにしてもその指輪、可愛い~」


 アリスの指で輝く青い石を見ながらホノカがはしゃぐ。


「これで罪を暴いて、オルベルトがマリウスをテーブルに……」

「うん、よだれをまず拭こうか」


 袖で口元をぬぐうホノカを見ながら、マナー講師の苦労を察して心の中で合掌した。


「なんでそんな美味しいイベントに私を呼んでくれなかったんですかっ!」

「なぜトラブルの渦中に聖女様を呼ばなきゃいけないのよ。だいたいマリウスの犯行動機はホノカちゃんが原因だったんだからね」

「え~、私のせいなんですか~」


 一気にローテンションになるホノカ。


「貴女に振り回されて日に日にやつれていく王子を慰めたくて犯行に及んだそうよ」


 次の瞬間、ホノカのテンションが一気にあがる。

 ころころと気分を変えるホノカをジャックが呆れたように眺めていた。


「やっぱりあの時のカンは正しかったんだ~っ、悔しい~っ、いやでもっ、鬼教官の目を盗むのは至難の業だし……」

「こらこら、訓練をさぼるのは絶対にダメだからね。時間がないんだから、スペックはあげられるだけ上げとかないと」


 忘れがちだが、彼女の神力の高さで世界の行く末が変わってしまうのだ。


「わかってますって~。ちなみにゲームでは魔法使いから薬をもらったと一文表記だったと思います」

「しょせんはゲームね。そうなるに至る記載はない、と」

「ちなみに魔王復活を望んでいるのが秘密結社と悪の魔法結社と悪の秘密結社です」

「その実態は?」

「さぁ」

「つかえねぇ……。その結社シリーズの人たち、顔は?」

「モブなのでのっぺらぼうか鼻らしきものしか」

「私もモブになりたくなったよ……」


 いつになったら黒幕の影にたどり着けるのか。

 フェルナンとグレイに期待するしかない。

 アリスは深くため息をついた。





ほぼ全部の文章に改がつくけれど、内容は改変していません。

全部、誤字脱字の直しだけなのです……………。

いつもご指摘ありがとうございます。

そしてこれからもよろしくお願いします。


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