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ファンタジー落語「死人(しびと)売り」 前篇

え~、お久しぶりの、ファンタジーと落語の融合てぇ馬鹿馬鹿しいお噺でございます。

タイトルが少々物騒に思えるかもしれませんが、そこは落語の世界。流血だのヤットウだの

そういったものは一切ございませんのでご安心を。強いて言うなら、慣れぬ土地でも

まっとうに商売に励む商い人のお噺でございます(ホントかよ

ただし、タイトルから想像されるものに耐性のないお方は、ご注意くださいませ。

 

 えー……落語と言うのはときにシュールと言うか出鱈目でたらめと言うか、あんがいぶっ飛んだお話がおぉございます。

 わかりやすいところでは「元犬」。八幡さまに願かけをした白犬が人間になるってえお話ですが、これなんかはまだ愛嬌があると言うか呑気なお話です。しかしこれが「犬の目」ってぇネタになるとちょいとグロが混じる。

 あるとき目を患った男、医者の所に行ったところ、医者は手際よく男の目ん玉をくりくり、ぽーんってくりぬいちゃった。で、色々不手際があって、医者は男に黙って本人の目の代わりにそこいらを歩いていた犬の目をはめ込んじまう。

 男、治療してもらった目はたいそうよく見えると喜びますが、一つ困ったことが。


「どういうわけだか、電柱を見ると小便がしたくなる」


 ……ま、この他にも「あたま山」なんてえシュールなお話やら、野ざらしのこつに酒をかけて供養するとか、落語の世界も意外とグロテスクな要素があるものでございます。


 しかしなんですな。

 あたしらぁ若い時分は、いわゆるスプラッタ映画全盛期でして、「13金」……13日の金○日シリーズだのエ○ム街シリーズだの、右を向いても左を向いても、血しぶきが飛び手足がちぎれ、目玉がくりぬかれておりましたが、昨今はスプラッタ映画もそれほど多く見られなくなったような気がします。

 昔はみなさんスプラッタ映画が大好きだもんで、それにちなんだ童謡までできた程で。


 すぷらった、らったらった、うさぎのダンス~♪


 …………えー、とにかく、こういうのもまた「若者の出世欲離れ」なんぞと並べられて、「若者のスプラッタ離れ」とか言われちゃうんでしょうかねえ。


「おう、お前。昇進の話、断ったそうじゃねえか」

「はぁ。あっしは別にいまのままで十分満足しておりますんで」

「近ごろの若いもんはそういうものなのかねえ。もっとこう、ガツガツしねえのかい」

「へえ、地位(血ぃ)にはとんと興味がございません」


 えー…………ここにおわしますは、長屋、じゃあなくてボロアパートに住む貧乏大学生でございます。

 まあとりたてて特筆するところのない貧乏人。将来の展望も何もない、そのうち「異世界転生俺TUEEEE小説」でも書いて一発当てようとかいう、お気楽な、しかし根は気のいい若者です。

 そんな与太郎んとこに泣きついてきたのが、同じアパートの住人。ネクロマンサーのクロさんでございます。


 えー、いきなりねくろまんさぁ、たぁなんのこったいとお思いになるでしょうが、いちおう「ファンタジー落語」というていでございますのでご勘弁を。

 つまりですな、この世界はあたしたちが暮らしている現代社会とそう変わりないんですが、この世界のほんのすぐ近くにはいくつもの異世界がございまして、ときおり向こうの住人さんがひょいと紛れ込んでくるてぇ、そういう世界観だと思っていただければ幸いです。


「そんなわけで与太さん、どうにか相談に乗っちゃくれませんかね」

「同じアパートの住人のよしみだ、力になりたいのはやまやまなんだけど……クロさん、向こうの世界じゃなにしてたんだっけ?」

「へえ、ネクロマンサー……死霊術師てえやつです」

「ええと、つまり?」

「早い話が、死体を操って使役するんでやすな。便利でやすよ、普通の労働者に比べて給料はいらない、休憩はいらない、文句は言わない、眠りもしない。資本家にとってはまさに理想の労働者と言うやつです」

「労組がまなじりあげそうな商売だな……要するに操れるゾンビみたいなもんかね。けどゾンビって力はあるのかい」

「そりゃあもう、筋力のリミッター外れてますから。あ、腐敗が進むとぽろっと腕がイッちゃうこともありますけどねハハハハ」

「ハハハじゃねーよ……」


「それでクロさん、いったい何の相談なんだい」

「それが聞いて下さいよ、あたしは死体を操る死霊術師。けんどこの国じゃあそもそも死体が手に入らなくて困ってるんでさぁ」

「あー……そりゃまあ、そうだろうねえ。日本じゃ基本的に火葬だから。人が死んでも骨しか残らねえのは道理だな」

「まあ、手持ちの召喚用死体がいくつかあるんですが、商売をしようにも街で客引きしてたら、お巡りさんに『営業許可はあるのか』なんて言われちまいましてねえ」

「って、どんな客引きしたんだい」

「へえ、そりゃごく普通に『死霊ぅ~、えぇ~~、死霊ぅう~~~。死にたてほやほやのぉ、生きのいい死霊はいらんかねぇえ~~っ』って感じに」

「売れねえよ! 金魚売りかよ!!」


 そんなこんなで、この与太郎てぇ男もそもそもがヒマを持て余した暇のヒマ人。

 退屈しのぎにああでもないこうでもないと、クロさんの商売を考えてやることにいたしまして、どうにかこうにか格好がついてきた。


「要するにあれだぁ、街中で勧誘みたくするから官憲に目ぇつけられる。最前さいぜんの金魚売りじゃあねえが、てめえの商売もんを売りあるく分には、それほど文句も言われめえ」

「はあなるほど。しかし手持ちの死体を連れて練り歩いちまうと、モノ売りと言うよりはハーメルンの笛吹き男」

「なにも死体を全部呼び出すこたぁねえんだよ。それにこれぁ死体でございって見せびらかすのも体裁が悪い。てえことでこういうことにしちゃあどうだい」


 ということで数日の後。

 準備万端整えましたるネクロマンサーのクロさん、前と後ろに天秤棒をひょいと担ぎますと、そのままひょこひょこ町内を回りながら口上一声。


「えぇ~死人しびとぉお~~~~ぇえ~~~、死人ぉおお~~~~~~。 死にたてほやほや、新鮮なぁ、死人だよぉお~~~~~ぃ」

「あー、ちょっといいですか」

「こりゃあお巡りさんじゃねえですか、お勤めごくろうさまでございます。なにかご用でも」

「ええと……あなた、ここでなにをなさってるんですか」

「へい、見ての通りの流しのモノ売りでございます」


 えー、近ごろの法律がどうなってんのかあたしゃご存じないんですが、まあ焼き芋売りだの豆腐屋さんの巡回販売みたようなものならおk、ってことに致しましょう。

 しかしいくらモノ売りとはいえ、売ってるものが「死人」とあっちゃあ、こりゃ穏やかじゃない。このポリスマン、クロさんの担いだカゴん中をじろりと覗きこみます。


「うわあ、こりゃいったいなんなんですか」

「へえ、見ての通り、こいつぁ『死人瓜』でございます」

「し、死人ウリ? ひい、ま、まるで人間の生首じゃないか」

「そうでがす。ハイチ原産の世にも珍しい人面ウリ、煮込みやスープにしても美味しいでやすよ」

「そ、そうですか。では、お、お気をつけて」


 どう見たって生首にしか見えない「死人ウリ」にビビりつつ、お巡りさん退散して行きます。

 さて、このウリが本当に瓜なわけがない。

 ネクロマンサーの商売道具であるクロさんの使役する、死体の首だけをカゴに入れて売り歩いているんですな。

 もちろん買う相手も心得ていて、クロさんの死霊術でもって動く死体を色々便利に活用するという次第。

 生首や死体を大っぴらに売り歩くことはできないが、「これはウリでござい」と言ってお上の目をかいくぐろうと言う算段でございます。


「与太さん、本当にありがとうございます。これであたしもこの国でおまんまを食っていく方便たつきが得られたッてえもんです……と言いたいんでやすが」

「おいおい、まだなにか問題があるのかい」

「へえ。いまンとこ、あたしの元々持っていた死体でどうにか事足りてるんでやすが、この死体だってそういつまでも使えるもんじゃあない。できれば新鮮な死体を定期的に仕入れたいところなんですけどねえ~」

「そう言われてもなぁ。モノホンの死体となると、こりゃあまともなルートじゃ手に入らねえだろうしなぁ~」

「そこをなんとか、お願いしますよ」


 さてもこの現代日本で新鮮な死体を手に入れようってことになると、やはり本職。

 すなわちフレッシュな死体を作るプロに依頼するのが早道でしょう。しかし与太郎もクロさんも身分は一般市民、ヤの付く方々にゆかりがあるでなし、ここはニッポン、ロア○プラじゃあありません。


「ぎりぎりグレーなところだが、あそこを頼ってみるしかないかねえ……」


 と、何やら思いついたか与太郎こうつぶやきました。


後半に続きます。

 


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