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二度目の目覚め


 目が覚めると目の前に一人の少女がいた。白い粗末なワンピース。それ以外は何も身に着けていない。伏し目がちな、黒髪の少女。


 少女は両手で抱えた湯気の立つ水瓶を床に置き、白い布を固く絞り、俺の体を丁寧に拭く。そしてしばらくの間俺の前から消える。戻ってくる時にはその手に二つの深皿と一つの匙を乗せた盆を持ち、ポリッジを俺の腹に流し込みその後口をゆすがせる。

 俺はそれら一連の行為を漫然と受け入れながら、少女をじっと見下ろしていた。少女に対して特別興味があったからというわけでなく、ただそこにある物として。感覚としては、部屋の見慣れた飾り柱を眺めるのに近い。

 何をする時も、少女の表情は動かなかった。見慣れた部屋の飾り柱が動かないのと同じように。


 少女が深皿を盆に戻す時、俺は口を開いた。

「俺は、罪を犯したんだろうな」

 何の気なしに口から出た言葉。少女に向かって言ったようになったが、実際のところは独り言を言うのと変わらない。自室で柱に向かって言葉を発するようなものだ。

 第一分かり切ったことだろう。俺が何か罪を犯したことなど。でなければ、俺がここに繋がれている説明がつかないではないか。


 では、この少女は……?

 この少女は、何が楽しくてこんな罪人の世話をしているのだろう。いや、これがこの少女の仕事なのかもしれない。それだったら、なんて味気なく陰鬱な仕事だろう。この少女だって、流行りの装身具がどうだとか憧れの異性がどうだとかで、はしゃぐような盛りの年頃だろうに。

 俺は改めて少女を見つめた。つるりとした頬。すっと伸びた鼻筋に、形の良い眉。美しい少女だと思った。ただし柱の装飾が美しいと思うのと同じくらいの感覚で。それは少女に表情がないからかもしれない。少女の表情は驚くほど動かない。まるでその顔に血が通っていないみたいだ。笑ったら人間味のある可愛らしい顔になるのだろう。しかしその時は永遠に来ないような気がした。


 伏し目がちな、黒髪の少女。身に纏うのは白い粗末なワンピース。少女は〝やはり〟何も答えない。そのまま少女は盆を持って俺の前から立ち去った。


 そうだ。俺は顔を上げて少女の後ろ姿を追った。少女がどこからこの部屋に出入りしているのかを確かめるためだ。しかし結果として、それは残念ながら分からなかった。少女が俺の視界から逸れた後しばらくして、その気配が消えたのだ。ということはつまり、俺の視界に入らないところに出入り口があるのだろう。

 まぁ冷静に考えたらそうするのが最もだと言える。出入り口が見えたら、遅かれ早かれ、また本気度合いは置いておくとしても、囚人は何とかしてそこから出る方法を考え始めるに違いないからだ。それ以外することもないとなれば、尚更。


 考え事のきっかけとなる出入り口がない。となると、今の俺には考え事に耽るほど考えることがない。物事を考えるだけの記憶の蓄積は、ごっそりとどこか俺の知らないところに持って行かれてしまっている。俺は何者なのだ、ここはどこなのだと頭の中で問いかけを反芻しても、決してその答えが出ないことは十二分に分かっている。

 だから俺は、迎えに来た睡魔に襲われるというよりは寧ろ身を預けるようにして、再び眠りについた。

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