愛と食欲
我の宝が、我の友がこの脚にある。そう思うと我は歓喜を通り越して狂ってしまいそうだ。何者も切り裂くこの鋭い鎌の腕の反対側で友に触れる。友は、嬉しそうに、そして気持ち良さそうにそれに頬づりをしてくれる。友はあれから15年たったと言われた。我が1000年以上たったというと
『ごめんね。そんなに待たせて....でもこれからはずっと一緒だよね。』
そう言って涙を流していた。それ以上に驚いたのは、あのときの約束の中でも友が生物として存在できないものを何のためらいもなく守ると言ったのだ。なぜそこまで決意しているのか聞くと
『だって僕はあと数十年したら死ぬんだよ。僕はそんなことで君や他の五人を悲しませて置いていきたく無いんだ』
その時の彼の目は真っ直ぐだった。我は確認したあと彼の血を少し提供してもらってそれで他の五帝にも手紙を書いた。これなら誰も疑わないだろう。そう思って数十分後、各地で喜びの咆哮や魔力の波動が響き渡った。
「さっき何かの咆哮やオーラみたいなのを感じたけどなに?」
-サッキノハ、オマエノソンザイニキヅイタ ホカノゴニンノ ヨロコビノ コエダ
「えっ!!他の五人にも会えるの?」
-アア アシタ アエルゾ
「やった!!楽しみだなぁ。」
そう言って彼はニッコリ笑っていた。だが我にふとあのときの血の匂いが甦った。我はいままで人間の血の匂いを嗅いだが鉄の匂いしかしなかった。だが友のソレは全然違うものだった。甘かったのだ、我が今まで舐めたどんな花の蜜よりも。だとしたらその肉はどんな肉よりも芳醇な味だろうか.....
タベテミタイ
ふと聞こえた衝動の声に驚いた。あいつは友なのだぞ決して食料では無いのに。どうしてそんなことを感じてしまうのか、我は自分が恐ろしく感じてしまった。
「どうしたの?」
友が我に声をかけていた。
-ナ、ナンデモナイ
「おかしいよ。だってイー君、涎垂れているよ。」
ばれてしまった。いや落ち着け、彼は我が食欲を感じたことに気づいていないだが、この想いは言っておかねばきっと後悔する。そう思った我は正直に告白した。
-オマエニ ショクヨクヲカンジタ...
「そうなの?僕は嬉しいなぁ。」
余りにも意外すぎる言葉に我は言葉を失った。
-ナゼ ソウオモウノダ?
我は余りにも疑問だった。普通なら恐れおののいてもおかしくない筈なのだ。
「これは僕の世界の話しなんだけど虫はね、食欲と愛の感情が密接何だって。だからね相手のことを思っていればいるほど、食べたくなるんだって。だから僕は君にそんなに愛されているのだと思って嬉しかったんだ。」
そう言われてみれば、そうだ。我の気持ちが愛から来るものだと知って安心したが次の言葉は我の理性を吹き飛ばした。
「それにね、僕は君や他の五人になら食べられるのなら問題ないんだ。勿論痛くして欲しくないけど。」
その言葉を聞いて、我は焦った。もし他の五人が食べさせてくれとお願いされたら友はきっと喜んでその体を差し出すのだろう。だがそれは許せない。この気持ちは恐らく醜いものだ。だが、今はこの気持ちに従いたかった。だから言葉を発することもなく。われは友を食べた。もっと彼を知りたい、一つになりたいと願って。