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連鎖怪談  作者: mystery
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【連鎖怪談 其の七】〜後継者の嬰児〜

とある地方の古びた旅館を切り盛りする三十代の若旦那と若女将。そんな若い二人を見守る周囲の関心事と言えば、この旅館を継いでくれる後継者問題であった。


今は若い二人が旅館を継いでいるからよいが、ゆくゆくは後取りも望まれることだろう。


そんな二人の間に待望の第一子が誕生した。旅館の従業員たちは我の事のように皆歓んだ。産まれるまでは…


というのも、生まれてきたその赤ちゃんには顔と右腕に大きなアザがあった。


医者が言うには、先天的なもので身体的には何の障害もないという。ただ奇妙な事を言っていた。


医者「ん〜またか…」

若旦那「どうしました?またかというのは?…」

医者「個人情報の問題もあるから詳しくは言えませんが…」

若旦那「言える範囲で結構ですので…」

医者「実は…先月も似たような事例がありましてね…」


医者が言うには先月も、ある妊婦が出産した赤子の顔と右腕にも大きなアザがあったという事だった。しかもこのような事例は日本各地で報告されているという。偶然にしては確率的にあり得ない事らしい。


一体なんの前触れか?何かの原因で生まれつきアザのある赤子が生まれてくる。しかも決まって顔と右腕という共通点。


ある者は因果応報のカルマだと言う。

ある者は陰謀で密かに仕組まれた人体実験だと言う。

またある者は先の大震災による原発事故の放射能の影響だと言う。


いずれにしても全く奇妙な共通点が今、現実に日本中で起きているのだ。


しかしアザを除けば、普通の可愛い我が子である。こんな小さな身体や、か細い手足を一生懸命に動かそうと目一杯、泣いている姿を見れば、いとおしいの一言しかない。


生まれたばかりでアザが目立つのであって、成長するにしたがってアザも消えてゆくだろうと楽観的に考えていた。


我が子を、旅館である我が家に連れて帰ると、従業員たちも祝福してくれた。


若女将である妻も、将来のこの旅館の後取りを無事、生んで喜んでいると、この時は思っていた。


だが妻の様子がどうもおかしい。


若旦那「どうしたんだい?」

若女将「…」

若旦那「アザの事を気にしているの?」

若女将「…うん」

若旦那「大丈夫だよ、そのうち消えるよ」

若女将「それならばいいんだけど…」


最初のうちは女将の業務を休んで子育てに勤しんでいた妻だったが、やがて日に日にやつれていくのを感じていた。


もちろん夫であり父でもある私も旅館経営や業務の合間を見ては子育てに積極的に関わってきた。


若旦那「最近、疲れているんじゃない」

若女将「…私…もう自信ないわ…」

若旦那「子育てかい?」

若女将「…そうよ…」

若旦那「一人で抱え込まないでさ」

若女将「…私…もう限界だわ…」

若旦那「限界?」

若女将「…あの子を見てると何か怖いの…」

若旦那「気にしすぎだよ、可愛いもんじゃない、アザなんてすぐ消え…」

若女将「違うの!生んだ時から何か変だった」

若旦那「変?」

若女将「…もう…わからない…わからない…わからない…キャーーぎャーー」


奇声をあげ取り乱す妻


私は何とか妻をなだめ、早目に布団に横にならせた。


「妻は育児ノイローゼかもしれない…疲れているんだ…」


ため息が出てくる。


「やっぱりアザのこと…動揺しているんだ…」


隣の部屋では子供が泣いている。オムツかミルクか。

私は重い腰を上げ隣の部屋へと向かう。

子供をあやしオムツを替える。


「オギャア〜オギャーーオギャア〜」

元気に泣いている…

「オギャア〜オギャーーオギャア〜」

「オギャア〜オギャーーオギャア〜」

子供の泣き声だけが湿った和室に響き渡る…

「オギャア〜オギャーーオギャア〜」

「オギャア〜オ…ギャ…ギギ…」


子供の泣き声が止んだ。私が泣きやませた。強制的に…


「お前が生まれてきたからこうなったんだ」

「妻も私もおかしくなったのは皆、お前のせいだ」

「アザなんか持って生まれたからこうなったんだ」


私は心の中で何度も、そう呟いた。アザを恨めしく思っていたのは他の誰でもない私自身だった。


「この旅館はもう終わりだ…」


寝室で休んでいる妻のもとに静かに行き、しばらく寝顔を見た後、私は妻の首に両手を添えた…


時計の秒針だけが静かに響き渡っていた…


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