【連鎖怪談 其の二】〜だって呼んだんでしょう〜
いわくつきのホテルや古い旅館の怪しい所、妖しい部屋には、除霊の為の"お札"が張ってあるという噂を聞いた事はありませんか?…
絵画やポスター、カレンダーの裏、棚の裏が怪しいとか。…
でも実際にソレを見つけても絶対に剥がしてはいけません。
これはある地方の由緒正しい日本旅館でのお話です。
一組の夫婦(仮称 小林夫妻)がやって来ました。
夫(仮称 小林きよし)のほうが霊に興味ありげに
「(霊)出る部屋ってお札が張ってあるらしいよ」
みたいな事を言い出して、いろいろひっくり返したりして、見つけてしまいました。
棚の天板の裏に張ってあったボロボロの"お札"を。
そして、
「これですごい事が起きるぞ」
なんてふざけて、ソレを剥がしてしまいました。
そんな事も半分忘れて、美味しい豪華な旬の食材、美味しいお酒に舌鼓を打って、露天風呂を満喫して、テンションが上がりはしゃいでいた事もあり、妻(仮称 小林みなこ)と疲れて眠ってしまいました。
そしたら、夜中になってみなこが、急にきよしを揺り起こすのです。
「ちょっと、起きて…ねぇ、あそこの壁のほう見てよ…」
きよしが言われた方を見ると、暗がりの中、真っ赤な着物を来た女性が、壁に向かって白粉をパタパタやって化粧直しをしているのです。
ソレを見て、二人とも恐くて動けなくなって…
それでも、その着物の女性はずっとそうやっているので、さすがにもう我慢ができなくなり、恐る恐る
「止めてくれ、なんで出てくるんだ!…」
と言ったら、その女性が一瞬手を止めて、一言こう言ったのです。
「…だって…呼んだんでしょう…」
更に続けて
「…隣の女は誰…邪魔…」
それで全身に戦慄が走りギャ〜ッ!!!っていうことになって、フロントに駆け込んだ訳なんです。
聞けば、その旅館があった場所というのは、昔、遊郭があった所らしいのです。
それが衰退して今の旅館の姿になったと…
だからその女性は、その土地に、憑いていた女郎の霊だったのです。
もちろん剥がした"お札"は、また元の棚の天板の裏に戻しておきました。
すっかり怯えて気分も滅入ってしまった小林夫妻は早々に旅館を出て、ひたすら車を飛ばして帰路に着きました。
が、その帰り道、車通りの少ない狭い一本道で、運転操作を誤りカーブを曲がりきれずにガードレールに激突してしまいました。
幸い、シートベルトとエアバックのお陰で、二人とも軽傷だけで済みました。
しかし、その一週間後、妻みなこは帰らぬ人となってしまいました。
原因はひき逃げでした。
即死でした。
猛スピードで突っ込んで来た車に跳ねられたみなこは、後続車にも次々轢かれ、体の一部はバラバラに引きちぎられ、頭は体ごと電柱にめり込む程の衝撃で、もはや顔の原型は留めていませんでした。
遺体とちぎれた一部はくまなく捜索され回収されましたが、いくら探しても最後の最後まで右手だけは発見されませんでした。
ひき逃げ犯は、全国に指名手配され、三ヶ月後、緊急逮捕されました。
捕まった犯人というのは、なんと、ひき逃げされて即死した、妻みなこの夫きよしだったのです。
そうです。ひき逃げ犯はきよしでした。
捕まったきよしは、何度も同じ言葉を繰り返すだけで尋問にも答えられず、一点を見つめては取り憑かれたように、ブツブツと独り言を繰り返すだけでした。
「…隣の女は誰…邪魔…」
だから、もしホテルや旅館で偶然、"お札"を見つけてしまっても、面白半分に剥がしたりしたら、絶対にいけません。…
剥がした"お札"の呪いは呪怨となって自分だけではなく身の回りの人にも振りかかって返ってきます…