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22ジョーカー  作者: 蜂夜エイト
一章 Surface And Reverse
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第六話 家族ということ







 「―――……ぅあ」


 薄暗い空間で、少女は目を覚ました。

 まず気付いたのは、両手を縛られ、身動きが取れない状態で地面に転がされているという事。

 そして、周りの状況を把握しようと思い瞼を開いた。

 だが、辺りを見渡せど、そこには闇しかない。


 「ようやく目覚めたかよ?それとも、餓鬼はもう寝てる時間だったか?」


 男の声は空間に響いていた。

 粘着質の、厭な響きを持ったその声は、少女に嫌悪感を与える。

 暗闇の奥から現れたのは、黒いスーツの男だ。


 「アンタは……っ!?」

 「自己紹介しようか。俺はテメェらの持ってる“ブツ”を有効活用しようと考えている一派さ。なぁ、ウエマツ研究所のクソ餓鬼さんや」


 その言葉に、少女―――フーは、無意識に下唇を噛み締めた。

 思い出したのだ。

 如何にして、この屈辱的な状況に置かれる羽目になったのかを。

 それと同時に、後悔していた。

 何故、自分はこうも短絡的なのか―――


 「黙り込んでれば悪くない“商品”なんだがなァ……如何せん、品がねぇ」

 「何ですと?このアタシに、品が無いと?立てばバクヤク、座ればカタン、歩く姿はヤケノハラと言われたこのアタシが?」

 「一個もあってねぇじゃねぇか……」


 溜息と共に言い、疲れ顔で肩を摩った。

 そこには未だ痛みを訴える青痣があり、男はフーを見下し、睨む。


 「ったく!阿呆みたいに暴れる所為でウチのメンツが使い物にならねぇじゃねぇか……怪力の餓鬼め!」

 「ちょっと待ちなよ!まさかその“怪力の餓鬼”ってのはアタシのことかい!?」

 「テメェ以外に誰が居るっつーんだよこのクソ餓鬼ッ!!」


 今はこうして縛られているフーではあるが、事実、彼女はマフィアグループを後一歩まで追い詰めていた。

 迫る男達を千切っては投げ、千切っては投げを繰り返すその姿は、まさに鬼神と言えよう。

 リヒトを倒したその実力は伊達ではなく、しかし、一歩及ばなかったということ。


 「いいから黙ってろや。明日になれば、愛しのウエマツ先生に会わせてやるからよ」


 その言葉の意味を、フーは一瞬で理解した。

 詰る所自分は、人質なのであると。


 「アンタ……汚いよ!男なら正々堂々、胸を張って戦いな!」

 「これが俺たち“大人”の戦い方よ!餓鬼は黙って、ままごと遊びでもしてな!」


 ま、これがある限り俺達は―――そんな言葉を放ち、男は愛しそうにそれを撫でた。

 釣られるようにフーが目をやる。

 そこには、巨大な人型の影。

 忘れもしない。

 フーの故郷を、父を、母を、総てを奪い去った巨人の姿を。


 「ジョーカー……マシン……!?」

 「第二世代ジョーカーマシン、ソードが四機。幾ら相手がアルカナエンジンだろうと……!!」


 フーには理解できない言葉を発しながら、男が恍惚した笑みを浮かべる。

 その姿を見て、フーは嫌悪感を覚える。

 まるで、得体の知れない生物を見たかのような、背筋に来るそれである。


 「アンタは……どこまでっ……!!」

 「勝って、アレを手に入れさえすれば、過程なんてどうでもいいのさ。そうだろ?」


 睨むフーを見下ろし、男は笑みを浮かべていた。

 しゃがみこみ、フーの顎を持って目線を無理やりに合わせる。


 「恨むなら、あのウエマツって男を恨め。あの野郎が再三の要請に応じないから悪いんだからな?」

 「アンタに……!アンタに、御主人を愚弄する権利は無いよ!御主人を馬鹿に出来るのはアタシだけさっ!」


 その言葉を、男は鼻で笑った。

 興味を無くしたかのように首を振り、男は呆れの目線をフーに投げやる。


 「もういい。もういいから、寝とけよ。な?」


 言い放ち、片手で持っていたその頭を無造作に落とした。

 頭を打ったショックで、フーの意識は断絶する。

 最期の一瞬まで考えていたのは、誰でもない、唯一人の男。


 「御主人―――」


 男が去ってそれきり、暗闇に声が響くことは無かった。






      *       *       *







 「これは、僕への罰なのかも知れないな」


 降りしきる吹雪は冷たく、人の心まで冷たくしてしまうようだった。

 しかし、その場に居る二人の心は熱く、怒りに燃えている。

 反面、立ち尽くすウエマツの心は、凍ってしまったかのように鈍い。


 「……かつての僕は、軍属の科学者として雇われて、ジョーカーマシンの研究開発をしていたんだ」


 だからだろうか、彼が独白したのは。

 それは決して、他人には語ろうとしなかった彼の過去。


 「当初は楽しかった。好きな機械弄りが出来て、金が貰えて、祖国も繁栄する」

 「ああ、そうだな。それが“正常”だ」


 皮肉交じりに、リヒトは呟いた。

 戦争に関わってきた者同士、何か通じたものがあるのかもしれない。


 「ある日、母の居る故郷が市街戦に巻き込まれたって報せが届いた。僕は急いで故郷へ戻ったさ」


 故郷。

 それが何処かはリヒトには分からなかった。

 が、この街では無いであろうことだけは、ウエマツの表情から、確かに感じ取っていた。


 「あったのは母の亡骸と、戦争で壊れた町並みだけさ……。僕は、戦争に加担していたことを初めて実感したんだ」

 「だから、軍を抜けたと?ジョーカーマシンに関わっていたなら、そう簡単に抜けられる筈が……」

 「僕は精神病に掛かったんだ。辛い……本当に辛い日々だった」


 当時の彼を知る人間なら、今のウエマツを見てさぞ驚くのであろう。

 精神病を患っていた当時は、栄養失調で倒れるほどに痩せこけた姿だったのだから。


 「軍を抜けて、精神病院に入院させられた。何とか治療して、軍に戻れと言われたとき、僕は逃げたんだ」

 「追跡は?」

 「幸いにも、見つからずに逃げ切れた。当時は第三次世界大戦も一番激しい時期だったしね」


 ふう、とウエマツが一息吐いた。

 白い蒸気が黒々とした闇に浮かび、瞬く間に消えていく。

 しかし、その間にもフーは、何処で何をされているのかすら分からない。

 焦ろうともしないウエマツの姿がまどろっこしく、リヒトは苛ついた表情を浮かべた。


 「この街に辿り着いて一番最初に出会ったのが……フーさ。そして、彼女は戦災孤児だった」

 「引き取って、育てた―――か」


 フェリアの言葉に、ウエマツは頷くこともしない。

 だがそれが真実であろう事は、何よりも、最初に出会ったフーが証明していた。

 同時に、フーにとって、ウエマツにとって、互いがどう思っているかすらも。


 「テメェ、罪滅ぼしの心算か?」

 「ああ、そうさ。僕の、戦争に関わっていた罪を償えるのはこれくらいしか―――」


 言いかけたウエマツの頬を、リヒトの拳が打った。

 薄く積った雪の上に倒れる姿を、リヒトは肩を怒らせて見下ろす。


 「ふざけるなよ。テメェ、まさか、本当に罪滅ぼしだ、なんて思ってんじゃねぇだろうな」

 「ぐ……罪滅ぼし以外の何があるって言うんだい?こんな、最低最悪の男に」


 卑下するウエマツを睥睨して、リヒトは怒りの形相を浮かべた。


 「フーを助けたいのか、助けたくないのか?それとも、もうどうでもいいのか?どれだ」


 リヒトの言葉に、倒れたままのウエマツは唇を小さく振るわせた。

 それは、決して寒さに負けたわけではない。

 確信し、リヒトはもう一度問う。


 「助けたいのか!?助けたくないのか!?」

 「……助けたいに、決まってるじゃあないか」


 返答は小さく、消え入りそうな声だった。

 ウエマツは倒れ、俯いたまま、肩を震わせる。


 「助けたいに決まってる……。フーは、たった一人の僕に残された“家族”だ……」

 「テメェ、今、“家族”っつったな?」


 リヒトはしゃがみこみ、ウエマツの襟を引っ張って顔を向けさせる。

 同じ目線で、静かに涙を流す瞳を見据えた。


 「“家族”を助けたいって事には、“同情”だとか、“罪滅ぼし”だとかは関係ねぇハズだ。テメェはそいつを言い訳にしてただけだよ。テメェの一方的な“罪悪感”のな」


 言い放ち、リヒトはその手を離した。

 再び雪上に項垂れるウエマツに背を向け、言う。


 「だがな……テメェが家族だと思ってるフーは、誰でもないテメェの助けを待っている。その為には、俺達も協力は惜しまねぇ」


 だから、と、続ける。


 「立て。振り返らず、前だけを見とけ。フーは、その先に居る筈だ。お前の“過去”には、もう誰も居ない」


 数瞬後、ウエマツは乾いた笑いを漏らした。

 涙の跡が残る顔を、そこらに積った雪でごしごしと擦る。


 「悪かったね。どうにも……僕は、精神的に弱いらしい。フーにはあんな格好させてるのにね。僕の趣味で」

 「はっ、全く、その通りだよ」


 リヒトの差し伸べた手を、ウエマツが握る。

 もう片方の手には、しっかりとネコミミバンドを握っている。

 まるで、二度と離さないと誓ったかのように、固く、固く、信念の如く。

 立ち上がると、二人は頷きあい、横目でその人を見た。


 「ってことで、作戦説明は任せたぜ。フェリア。どうせ何かあるんだろ?」

 「ようやく喋れたと思ったら、そんな役回りか……やれやれ」


 大げさに首を振って見せて、嘆息。

 その姿にリヒトは苦笑し、ウエマツもにやついていた。


 「これは……メイド服を着せたくなるね―――おぅッ!?」


 直後、脛を押さえて転げまわるウエマツを尻目に、フェリアは説明を始めた。


 「いいか?今回のフー奪還作戦だが……コイツを使う」


 言い、懐から取り出したのは、少々大きい携帯端末だ。

 それの用途を知るリヒトは、驚いたような顔をする。


 「グラインダーを呼ぶ携帯端末?テメェ、マフィアの野郎を殲滅する心算かよ?」

 「その心算だが?」


 さらっと言うフェリアに、リヒトは唖然。

 彼女はそれを無視して続ける。


 「作戦の肝は“相手を騙し切ること”、だ。それを肝に銘じて、作戦に当たって貰いたい」


 が、その前に、と、フェリアは提案した。


 「一旦研究所に戻るぞ。ウエマツが……死にかねん」

 「……そうだな。戻るか」


 リヒトの後ろでは、脛を押さえたまま体の半分ほどが雪に覆われたウエマツが転がっていた。






戦闘まで書くと中途半端に長かったのでここでカット。


次回、ウエマツ編は終われ……たらいいなぁ。

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