第十九話 それぞれの
基地に会議室は幾つかあれど、全てが稼動的に帰納しているとは言い難い。
少数での会議ならばこじんまりとした第二会議室で事足り、人を集めるならば第一会議室が妥当だ。
故に、会議室の使用頻度は番号が若い順に高いというのがこの基地での常識であった。
その中でも一番大きな番号を冠された、第五会議室。
人が集まるのは、約一週間ぶり。
そこに居るのは、“デイブレイク”に反撃の牙を突き立てんとする勇士達だ。
最期の入室者が着席したのを見て、ベルランドが会議室を見渡す。
緊張した面持ちのリラ・アーノートと、その隣に着席したアイリ・フォード。
新たに参入したウエマツとフーは、隣り合った席で歓談に興じる。
そして、いつも通り表情を読ませないフェリアと、リラックスした様子のリヒトが連なって座っていた。
「揃ったようだから、まず、本題を述べる」
以前の会議から増え、或いは減った面子を眺め、ベルランドが言った。
その言葉に、その場の全ての人間が気を引き締める。
漂う緊張感の中、ベルランドは冷静に口を開いた。
「デイブレイクの基地のひとつを見つけた」
「何!?」
最初に喰らい付いたのは、リヒト。
椅子をがたりと鳴らして、大いに驚きを表現した。
「どうやらその基地はジョーカーマシンの生産、及び開発をしているようだ。事実、その周辺には登録の為されていないジョーカーマシンが駐留している」
「他の軍基地ではなくて、ですか?」
「あの場所に基地は造られていない。何より、あんな辺鄙な場所には基地は立てても意味が無いだろう」
ホワイトボードに貼り付けられた写真は、この地方の外れにある“アルバートマウンテン”のものであった。
アルバートマウンテンは中規模の山脈であり、滅多に人の訪れない場所である。
主要拠点が近くにある訳でもなく、戦術的価値も皆無に近いだろう。
故に、デイブレイクは目を付けた。
「衛星写真故に解像度は低いが、それでも分かるだろう」
「見間違い、では無さそうねぇ……」
アイリがまじまじと写真を見て、呟く。
そこに写っていたのは、明らかに軍用のカスタムではないジョーカーマシン。
チャリスの面影を残していたが、全身に取り付けられた重火器は間違いなく魔改造であった。
「成る程、これは確かにデイブレイクの物のようだ」
「だな。俺もこの機体とは戦った記憶があるぜ」
リヒトが思い出すのは湖付近でジョーカーマシン四機を相手にした記憶。
その中にあったチャリスは、確かに、この写真のような装備をしていた。
全員が写真を見つめ、各々がそれぞれの思いを持つ。
デイブレイクへの興味、怒り、畏怖、或いは、もっと関係のないこと。
取り留めない思考の渦の中、リヒトは静かに声を上げた。
「戦るのか?」
「戦る」
即答。
ベルランドはホワイトボードに文字を書いていく。
記された日付は、丁度一週間後。
「一週間後の深夜零時に奇襲を掛ける。それまでに準備を整えるぞ」
「存外、短いなぁ……もっと長くならないの?」
「それ以上時間を掛けると危険だ、と判断した。貴様もこの基地と心中したくは無いだろう?」
ベルランドの言葉に、ウエマツが憂鬱の溜息を吐く。
裏方の人間には裏方の人間にしか分からない苦労が有るのだろうと、リヒトは呑気に思っていた。
「作戦の詳細は後に再びミーティングを行う。今はとにかく、奇襲作戦の準備に尽力する」
異論は無いな、というベルランドの言葉に、殆どの人間が頷いた。
しかし、フェリアだけが口を開く。
「異論ではないが、質問がある」
「何だ?」
「基地の情報、何処から手に入れた?」
その言葉は、その場の全ての人間の心を代弁していた。
故に、全ての人間がベルランドへと視線を向ける。
しかし、その視線を受けても尚、ベルランドは毅然と言う。
「言えない」
「は?」
「言えない、と言ったのだ」
その言葉に、会議室は一瞬、呆然とした空気に包まれた。
だが、気を取り直したアイリが繋げて聞く。
「何で?」
「その理由も言えない。だが、情報は真実だ。それだけは疑わないでくれ」
全員が不思議そうな顔から、訝しげな顔へと変わる。
流石のフェリアもこのことには、多少の動揺を隠せていない。
―――“不審”であるが故に、それは“不信”へと繋がる。
作戦行動において最も致命的なものであるが、それをベルランドが理解していないとは思えない。
「それは、何と言うか……大丈夫なのぉ?」
「大丈夫だ、問題無い」
表情は一片たりとて変化していない。
そのことが、この男が“本気”であるという証明であった。
何を聞こうとも、ベルランドが答えることは無いだろう。
そのことを悟ったリヒトは、いち早く頷いて見せた。
「……しゃーねぇ。俺とお前の仲だ、今回は貸しにしといてやるよ」
「恩に着る」
短い感謝の言葉と共に、ベルランドは頭を下げた。
歯牙にも掛けずに手をひらひらと振るリヒトの姿を見て、周りの人間も次第に冷めていく。
「それもそうねぇ。今更ベルランドが何かしようって訳でもなさそうだしぃ」
「僕は後方支援だからね。何処から情報を手に入れようが、関係は無いのさ」
「いや、あるでしょ御主人」
フェリアも一度頷き、言う。
「……ならば、早く準備に掛からなければな」
「では、各員準備に取り掛かってくれ。次の会議は決戦前、六日後だ」
ベルランドの鶴の一声で、それぞれがそれぞれの持ち場へと戻っていく。
“対デイブレイク戦線”、本格始動。
その事実が、リヒトに自然と拳を握らせた―――
* * *
ベルランドの声明を聞き、一番慌しくなったのは格納庫だ。
本来二週間程の時間が必要な改修作業を全て一週間で終わらせる。
これには基地のメカニックは愚か、通常勤務の軍人も引っ張り出しての大作業となっている。
その全てを取り仕切っているのはウエマツだ。
「そこの数値は後で僕が入力しておくから、君達はキリングの装甲の修理をやっていてくれ!」
「御主人、アタシはっ?」
「あー、そうだな、じゃあ、緑茶でも淹れてきてくれ」
駆け寄ってきたフーにそう指示すると、ウエマツは額に浮いた汗を拭った。
久々に息を吸ったような気がして、生きていることを実感する。
準備が始まって一日しか過ぎていないが、疲労はゆうに三倍はあるだろうか。
パソコンの画面も見飽き、ウエマツは格納庫の中を見渡した。
忙しく走り回る軍人達と、率先して作業をこなすメカニック達。
それら全てが、ただ勝利のために汗水を流している。
「一週間ねぇ……ベルランドも、なかなか無茶な事を言うなぁ」
無謀な工程ではあるが、それでも、ウエマツは出来ると確信していた。
否、やらねば、未来は無いと恐れていたのだ。
だからこそ、ウエマツは先ほどまで一睡もせずにデータを書き換えていたのだから。
ウエマツのその見た目とのギャップに、メカニック達もまた、奮起した。
彼らは既に己が職務の域を越えて戦っている。
これは戦争。
小さな、それでいて、重大な戦争なのだろう。
小さく息を吐き、ウエマツは目の前にある巨大な人型を見上げた。
暗緑色の装甲が鈍く光り、ウエマツを睥睨している。
「簡易アルカナオーバー……確かに、アルカナオーバーが使えるとはいえども有用であることに違いは無い、か」
ウエマツの書き換えた内部データは、簡易アルカナオーバーに関するデータ。
その作業一つで“英雄”の勝率が変わるのなら、幾らでも徹夜してやろう。
他ならぬ、フェリアの頼みでもある。
「しかし、あの時は見事なツンデレでしたな……」
「何をぶつくさ言ってるのさ?」
隣を見ると、フーが怪訝な目を向けていた。
その盆には淹れたての緑茶が湯気を立てている。
ふっと微笑み、ウエマツは緑茶を手にとって、フーの頭を撫でた。
「何でもないよ……さ、あとは邪魔にならないように、部屋に戻ってなさいな」
「ちぇー、暇なんだよっ!」
渋りながらも、フーは素直に部屋へと戻る。
自分がこの場においては邪魔にしかならないことを理解しているのだろう。
ウエマツは走り去っていくフーの背中を見て、再び決意する。
あの小さな背中を護れるのは、自分しかいないのだと。
作業を再開しようと、手にした緑茶を一口啜る。
「―――熱っ!!」
* * *
宛がわれた部屋の中で、リラ・アーノートは資料を捲る。
紙の擦れる音と共にその目に飛び込んでくるのは、他ならぬこの軍に関しての資料だ。
「……うーん」
思うような結果に巡り合えず、唸る。
手元にある資料の束は多く、机の上には数え切れない量が散乱していた。
それらは全て軍事関連の資料であり、本来は門外不出のもの。
しかし、一介の戦争ジャーナリストであるリラがこれを眺めているのには理由がある。
「ベルランドさんの頼みとはいえ……流石に無茶な気がしてきたなぁ」
リラに与えられた新たな仕事は、調査と報告。
ベルランドから宛がわれた資料を見て、何か矛盾があれば報告をするように言いつけられた。
戦闘能力も、技術もない彼女が今回の戦いに貢献できる、唯一の方法である。
そう信じて、リラは再び紙を捲った。
「これは個人的な事だ、なんて言ってたけど、何が気になるんだろう?」
呟きながら、ベルランドの顔を思い浮かべる。
神妙な、何かを覆い隠すような仮面の表情。
しかしその真意を読み取れるほど器用では無いし、それを本人に聞くほど無神経でもない。
一つだけ溜息を零し、リラは紙束を眺める。
その中で一つ、小さな、小さな違和感。
「……これって、矛盾?」
目を付けたのは過去の戦争におけるとある陸隊の戦死記録。
戦死者の数が、先ほどの資料よりも減っている。
その事に気づいたリラは再び紙束を散らかして、目的の紙を見つける。
陸隊だけではなく、全体の戦死者を時期別に記録したその資料と比べるが、やはり、戦死者の数は同一ではない。
小首をかしげて、唸る。
「記載ミスかなぁ……でも、やっぱり報告かなぁ……?」
―――最終的にリラは、それを“記載ミス”だと判断して、再び紙束の海へと溺れていく。
それがベルランドにとってどのような結果を齎すか。
今はまだ、知る由も無かった。
* * *
今回の戦闘において、ベルランドは少数精鋭で奇襲することを提案した。
そしてそれは理に適っており、故に、アイリはその作戦の難しさを感じていた。
ただでさえオーバースペックであるアルカナマシン。
それに加えて、多数のジョーカーマシンや数々の妨害が予測される。
その中で、勝利条件も曖昧な戦いをする意味―――アイリには、量りかねる。
「まぁ、リヒトのためならそれも必要ないけどねぇ」
そう、彼女にとってはたった一つの理由があればいい。
リヒト・シュッテンバーグを助け、あわよくば更にお近づきになるのが今の理由であった。
故にも、作戦は絶対に性交させなくてはならない。
今回、自社であるフォードPMCから派遣できる、ジョーカーマシンを操れる傭兵は五人まで。
その最大数を用いて、アイリは戦場へ赴こうと画策していた。
ふと、部屋にノックの音が響く。
アイリは入るように促し、唯一の出入り口である扉が開くのを眺めた。
「失礼します」
「おっす社長!」
「あらぁ、ナドレにバドルじゃなぁい!早かったわねぇ」
そこに居たのは二者二様の声を出す、二人の男だ。
どちらもアイリが呼び寄せた手練の傭兵であり、右腕、左腕と呼ばれる存在である。
「それはもう、かなり飛ばしてきましたからね。なるべく早く己の機体を見ておきたいもので」
「ナドレは真面目ねぇ」
「当然です」
アイリから見て右に立つ、理知的な雰囲気の男―――ナドレは、当然のように言った。
眼鏡の黒いフレームを光らせ、黄金色の双眸でアイリを真っ直ぐに見つめる。
「それよか、さっさと俺の機体を見せてくれよ。出来るならソードがいいな」
「後で見に行くわよぉ、バドル」
そしてアイリの肩に手を置いて馴れ馴れしく喋る筋肉質の男――ーバドルが、からからと笑う。
浅黒い肌に短い金色の髪、碧眼が楽しそうに細められていた。
彼らこそはフォードPMCを影から、また、戦場から支える“右腕”と“左腕”。
ただそれは有能であるからという理由だけで付けられた異名ではない。
「バドル、馴れ馴れしいですよ。ただでさえ素行が猿並みなのですから、こういうところでしっかりしなければ」
「ウルセエな、ナドレ。テメェはピーチクパーチク耳元でピヨピヨと……煩わしいんだよ!」
その真の意は、“決して一つになる事の無い物”。
つまり、反目した存在であるという事。
彼らは、互いが互いを苦手とし、敵意を持っているのだ。
“犬猿の仲”と呼ぶのが相応しいであろう。
「全く、僕の言葉が理解できなかったのですか?もう少し入念に耳掃除をしたらどうです?」
「そのよく滑る口は油でも塗ってあんのか?油取り紙口に突っ込むぞこのヤロウ」
「あらあらぁ……どうしようかしらぁ……」
いつも通りの喧嘩を始める二人を見ても、なお、アイリは困ったように眉尻を下げるだけであった。
* * *
静寂に包まれた隊長室に、ベルランドは一人で居た。
ただ黙し、机の上に置かれた手紙を読みふける。
もう幾度見たのかも分からない、その手紙を。
文章の最後まできっちりと脳内で読み終えると、ベルランドは本棚の上の写真立てを見た。
そこに写っているのは、若いベルランドと士官服の女性。
最早繰り返すことは無い、古き思い出の一枚である。
「……これが運命だというのか。因果な」
呟き、手紙を書いた人間の事を思う。
二度と戻らないと思っていたその筆跡すらも、今は呪いとなってベルランドを苦しめていた。
運命というものがあるのならば、ベルランドは今までの人生で一番、それを恨んでいるだろう。
現実は残酷に迫り、気付けば、作戦決行まであと三日だ。
最早衝突は避けられない。
「ならば、戦う」
言葉にしなければ、崩れてしまいそうな意思。
故に、ベルランドは一度だけ強く拳を握った。
見据えるのは手紙の亡霊ではなく、デイブレイクだ。
そこを間違えてはならない。
―――が、ベルランドは気付いている。
自身が、その我侭故にリヒト達へと掛けている不信を。
そして、それがいつか崩壊に繋がってしまうという事も。
気付かない振りをして、決意した振りをする。
それはあまりにも滑稽。
だが、あまりにも悲痛な、ベルランドの精一杯の抵抗だった。
「……戦えるさ。キリングが、あれば」
しかし、心の中では最悪な考えが渦巻いている。
それを振り払うように頭を振り、手紙を元の封筒の中へと戻した。
机の中に仕舞い込み、写真立てを倒す。
古き想いを封印し、今は―――
ベルランドが部屋を出る。
そこに残されたのは、悲痛な思いと、哀しき宿命。
そして抗い切れぬほどの、強烈な運命の波である。
* * *
「ポンコツ風情が俺に当てるなんてな、百万年早ぇんだよっ!!」
叫び、操縦桿を思いっきり引いた。
機体はそれに呼応し高く跳躍、目の前に迫っていた砲撃を回避する。
そのまま空中で、手に持った砲を構えた。
「返すぜ!」
放たれた砲弾は一直線に敵のジョーカーマシンへと向かっていく。
間抜けにも見上げたままのソードに、砲弾が直撃した。
黒煙を噴出しながら後ろへと倒れるソードを尻目に、空中へと飛び上がっていたワンドが華麗に着地。
戦いが決着したことを示すブザーの音がコックピットに響き、リヒトは顔をしかめてそれを止めた。
「音が大きいんだよ!んな音鳴らされなくても分かるっての!」
『これは勝者じゃなくて敗者に知らせるためのシステムだ。だから、どんな状況でも聞こえるように大きな音が出るようになっているらしい』
「なら勝者に鳴らすんじゃねぇよ!鼓膜破けるわ!」
『サービスだ』
両耳を手で押さえながらも、通信先のフェリアに怒鳴るリヒト。
淡々と答えたフェリアであったが、その声音はどこか楽しげに聞こえた。
「ったく!どいつこもこいつも、本当に訓練受けた軍人か?弱すぎるだろ」
『第三次世界大戦の英雄がそう簡単に負けられると思うのか?』
模擬戦を始めて既に六日連続。
気づけば今晩が作戦の決行日となるが、それまでの戦闘の間でリヒトは一度も負けることは無かった。
“英雄”の実力は確かであり、模擬戦は最早、それを揺るぎないものとするだけの作業である。
無論、リヒトに挑んだのは全て、実践的なジョーカーマシンの訓練を受けた軍人だ。
「さぁ、次はどいつだ?」
『落ち着けリヒト。もう既に軍人たちは昼休憩に入っている』
「……マジかよ。俺の分の飯残るのか、コレ?」
フェリアの言葉に肩を落とし、リヒトはコンソールを操作した。
軍基地に居る以上は食事も軍隊式となる。
すなわち、早い者勝ちである。
今からジョーカーマシンを仕舞うのに十五分は掛かるだろう。
ただでさえ模擬戦で疲れた軍人達だ。
その十五分が致命的なものとなり、リヒトは今日もまともな飯にはありつけないのだろう。
『貴様が時間も気にせずに戦うのが悪い。大体、食事など食べられれば何でもいいだろう?』
「テメェには分からねぇだろうな!三日連続でサラダしか食ってない俺の気持ちがよ!!」
やけくそ気味に叫び、ジョーカーマシンを停止させた。
コックピットハッチを開き、外気にその身を晒す。
外には、いつも通り白いコートのフェリアが立っていた。
「安心しろ、私も三日間サラダだ。誰かにつき合わされた所為でな」
「テメェは飯が食えれば何でもいいんじゃねぇのかよ」
「流石にサラダだけでは栄養素が偏る」
「ハイハイ、俺が悪うござんしたよ!!」
くだらないやり取りをしなが、肩を並べた。
基地と演習場の間には少しばかり距離がある。
歩いて五分ほどの距離ではあるが、既にリヒトは肌寒さを感じていた。
「しかし、よくもまぁ白衣だけで寒くねぇよな……ウエマツのときもそうだったけどよ」
「寒さには滅法強いのだよ」
それだけでは納得できないリヒトであったが、仕方なしに息を一つだけ吐いて呟く。
“神は不公平だ”などと、薄く笑いながら。
リヒトとフェリアにとってこのひと時は、自身でも分からぬほどに安堵できるものであったのだろう。
故に、二人は無理に口を開こうとしない。
沈黙もまた、会話。
それは思考の渦の中、己と、そして、隣の人間との会話である。
冷たい風が吹く中、リヒトは思い出していた。
戦時中の己と、戦火の中の己を。
そして、今、こうしてフェリアと並んで歩く自分とを比べる。
なんと、面倒なことを引き受けたのか。
昔の自分にそう言われた気がして、リヒトは薄く笑った。
―――だが、今のリヒトは言う。
面倒で、柄にもないような話だ。
でも、それ以上に、何かがあるのだ。
そう、フェリアとの出会いをきっかけに。
だから、リヒトは戦う。
他ならぬ“今の自分”を護るために。
気づけば、既に基地の出入り口までたどり着いていた。
リヒトは思考の渦から抜け出す。
知らぬ間にフェリアは先行し、振り向いて手招きをしていた。
無表情に見えるが、それはフェリアなりの不器用な笑みであることを、リヒトだけが知っている。
「……ついでに護ってやるか」
「何か言ったか?」
振り向いたフェリアが訪ねるが、リヒトは口の端を上げるだけに留まる。
「何でもねぇよ。さっさと行って、今日こそサラダ地獄脱出だ」
「ああ、そうだな」
肩を並べ、二人は歩く。
作戦の日は、今晩、零時―――
次回からガンガンバトルします。
機体もどんどん出してい……けたらいいなぁ。




