プロローグ
焦土と廃墟が立ち並ぶ、土色の戦場。
彼はそこに立ち、最期の音を聞いた。
『―――戦!停戦協定が結ばれました!』
電子ノイズと共にその言葉を伝えるスピーカー。
荒れ果てた戦場に一人佇む男は、静かにそのスイッチを切った。
狭いコックピットの中で、自嘲気味に笑顔を浮かべる。
「やれやれ、人殺しは御役御免か。意外と早かったな」
その皮肉に答える者は居ない。
何故なら、彼の周りには既に生きている存在が居なかったためだ。
あるのは焼け焦げた土地と、砕けた鉄色の破片。
それは、ジョーカーマシンと呼ばれた人型駆動兵器の残骸である。
味方を識別するためのカラーバリエーションも、全てが炎により橙色に染まっていた。
「世界大戦も終り、俺は無職……」
世界に齎された新たな技術と要素によって生み出されたジョーカーマシン。
それは世界に第三次世界大戦を引き起こした。
しかし、それも最早過去の事。
今は、何も考えていなかった明日の食い扶持を如何にするかで頭が痛い。
「やれやれ―――っと、通信か」
それは旧知の仲であり、今は別の戦場に居る筈の仲間からのものであった。
しかも、同時に二つ。
苦笑しながらも通信機器のスイッチをオンにすると、途端にけたたましい歓声が聞えてきた。
最も、それはノイズのような音であることから、バックグラウンドミュージック代わりの喧騒なのであろう。
『―――リヒト。生きてるか?』
『リヒト、大丈夫ぅ?頭打って馬鹿になってたりしなぁい?』
二人の言葉に、リヒト、と呼ばれた男は苦笑。
馬頭文句の一つでも吐いてやろうと、静かに笑みを湛えた。
「五月蝿ぇ、テメェら揃いも揃って……」
『だって、ねぇ……?』
『“英雄”最期の任務地だろう。ハイにでもなっているかと』
「酷ぇな」
ぼやきながら、リヒトはウインドウパネルを操作する。
手馴れたもので、彼の乗った人型駆動兵器は背部のバーニアを噴かせ始めた。
『そういえば、“英雄”さんはこの後何するのかしらぁ?あ、私のところに永久就職ってのは―――』
「勘弁してくれ。頼む。それだけは死んでも嫌だ」
『しかし、実際お前は傭兵のようなもの。戦争が終われば、食い扶持はゼロだぞ?」
「そうさな」
ぶっきら棒に返答しながらも、自動操縦の期待の中で思案顔を浮かばせる。
ふと、アイカメラ越しに外を見ると、綺麗な夕焼けが見えた。
大戦の終りに見たそれは、世界の終焉のようだった。
「隠居でもすっか?」
『お前が隠居だと?』
折り返し、驚きの声が上がる。
相手はめったに驚かない性分の人間だったので、その姿に新鮮味を感じた。
「赤ーい屋根の別荘でも作って。そうだな、立地は森が良い。ボツンと、一人で住む」
『やーん、素敵』
「だろ?」
『皮肉だ。気づけ』
不敵に笑みを浮かべて、リヒトは戦場を飛んだ。
これが“英雄”の最期の飛行になると、誰もが信じていた―――
第三次世界大戦終結。
勝者である連合国は敗者への裁きを下し。
世界の全てを巻き込んだ、最大規模の“冷戦”が始まろうとしていた。
「ククク……素晴らしい、な。この力は……!!」
その中で暗躍しようとする者の存在を、まだ、誰も知らない。
初めましてでございます、蜂夜エイトです。
厨二病能力ロボットバトルを予定しております。
拙作ではございますが、暇つぶしとなればこれ幸いと。