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22ジョーカー  作者: 蜂夜エイト
一章 Surface And Reverse
12/41

第十話 砂塵の地にて





 「あー、クソ!一体どうしてこうなった!」


 直射日光を浴びながら、リヒトは往来の真ん中で毒づいた。

 周りにあるのは砂と、石造りの建物と、浅黒い肌の人種の群れ。

 彼の探している存在は見当たらない。


 リヒトは探し回ることを止めて、沿道の瓦礫に腰を下ろした。

 その背後に存在していた建物は崩れ、あちこちに未だ残る焦げ跡がその激しさを物語る。

 この町で行われている行為、それは、戦争。

 人類が人類を粛清し、信念の名の下にそれは行われる。

 だが、そんなものは今のリヒトには興味がまるで無い。


 「見つからねェ……手懸りも、何もかも……」


 今日で、三日。

 探し物を見つけられぬまま、三日が無常に過ぎ去っていた。

 楽天家のリヒトとは言え、流石に焦ってくる。

 “アルカナエンジン”などという存在を紛争に利用されれば、それこそ、戦いは泥沼と化してしまう。

 そこの往来を行く罪の無い人間たちが、無闇に血を流すこととなりえるのだから。


 暑さに項垂れるリヒトに、影が差した。

 それは決して雲が流れたわけではなく、好意を持った人間が寄ってきたわけでもない。

 逆に、その人影は害意のみを持って笑っていた。


 男の肌は黒く、そして、全身に傷跡を残した戦士だ。

 その識別帽と羽織った黄土色のタクティカルベストから、男は軍人であることが分かる。

 ご丁寧にもその腰には大型のアーミーナイフを引っさげ、威嚇するように陽光を照り返していた。

 そしてその影を見上げようともせず、リヒトは言う。


 「何人目だよ……」

 「―――?」


 男の喋る言葉は異国の言葉だ。

 脳内で翻訳しようと思えば出来たが、それをリヒトはしなかった。

 理由は単純、男の言葉を解す必要性を感じなかったから。

 それでも、男が呆けた顔をし、次に笑い出したことから、リヒトが馬鹿にされていると言う事実に気付くまで時間は掛からなかった。

 だが、それを怒る気力すらも、リヒトには無かったのだ。


 「いい加減にしろよ、クソ野郎が。揃いも揃って弱い者虐めしか出来ねェヒヨッコが、ピイピイ喚くな」


 わざわざ言葉を現地のものに変えたこともあって、男は途端に顔を真っ赤にした。

 そしてそのまま、自慢のアーミーナイフを抜き放つ。

 が、その時にはすでに、リヒトの手刀が喉元に刺さっている。

 悶絶する男を尻目にリヒトは立ち上がり、アーミーナイフを持つ右手を踏みつけた。

 堪らず、男はアーミーナイフを手放す。


 「いいか、ボンクラ。俺は今最っ高に気が立ってるんだ。次俺の邪魔したら容赦しねェ」


 涙目の男にそれだけ言うと、リヒトはその足をどかした。

 怯えた目で見上げる男を一瞥すると、リヒトは足を振り上げて―――


 「分かったなら、寝てろ!!」


 振り下ろす。

 踵落としが決まり、男は無様にも砂の上に倒れた。

 残されたリヒトは、一人、空に呟く。


 「クソ、何処行ったんだよ……あんのクソ女!」


 リヒトの視線は、憎らしいほど晴れ渡る空。

 リヒトのポケットには、壊れた携帯電話。

 リヒトの隣に、フェリアは居ない。


 事情を説明するならば、彼らがこの町に辿り着いた三日前の日まで遡る―――






      *       *       *






 「お前、暑いのに大丈夫なのか?前より健康的だけど」

 「私は寒冷地に棲む動物では無いぞ」


 リヒト達が新たに踏み入れた任務地は、ほぼ同じ緯度に存在する砂漠の国だった。

 石造りの建物が主流の、まだまだ発展途上の国。

 しかし、ここには今、世界の何処よりも“兵器”が溢れている。

 紛争地帯となっているこの地域は、今や各国の兵器試験場と化しているのが現実であった。

 代理戦争とも呼べるこの紛争は、第三次世界大戦終結後から未だに終わっていない。


 「んで、ここにデイブレイクがジョーカーマシンを持って現れるって事か?」

 「“アルカナマシン”であるかは分からないがな」


 フェリアが吐き捨てるのと同時に、リヒトは賛同の意を返した。

 この紛争地帯にデイブレイクのジョーカーマシンが派遣される、という情報は、何処からかベルランドが掴んできた情報である。

 果たしてその情報源を信用できるのかどうかは、分からない。

 だが、彼らはわざわざ、この地に足を運んだ。

 しかし、前回の“ウロボロス”以降手懸りをなくしてしまった彼らには、とりあえず足を動かすしか道は残されていなかったのだから。


 「不確かな情報でしか動けないってのは、こう、やきもきするなァ」

 「ぼやくな。それは、私とて同じなのだ」


 だからこそ、フェリアは自然に足を速めていた。

 リヒトには、その表情が心なしか焦っているように見える。

 彼女自身が言っていた訳ではないが、リヒトには大まかに彼女の心境を察していた。

 きっと、フェリアは“デイブレイク”と深く関わっている。

 その上で、“今の”デイブレイクが、決して、許せないのだ。


 リヒトは独り、苦笑する。

 最初は鉄面皮のような女の表情も、最近になって変化がわかるようになってきた。

 ならば。

 ならば、今しばらくは彼女の“手足”となって、デイブレイクとアルカナエンジンを追うのも悪くは無い―――

 二歩ほど先を行くフェリアを追って、リヒトが大股で歩き出した時だった。


 「きゃあっ!?」


 目の前から、甲高い嬌声が上がった。

 一瞬フェリアのものかと瞠目したリヒトだが、肝心の本人は突っ立ったまま首一つ動かしていない。

 もしもこの状況でこの悲鳴を上げたのなら、相当珍妙な状況であろう。

 下らない考えを巡らせるリヒトとは対照的に、フェリアはいつも通りの冷静さであった。

 例え目の前に突然、人がぶつかってきても表情を崩さない。


 「大丈夫か?」

 「助けてくださいっ!追われてるんですっ!」


 が、開口一番この科白を並べられては、フェリアも困惑の沈黙を返すしかなかった。

 言う間にもぶつかって来た若い女はフェリアの後ろに隠れる。

 その不安定な表情を振り返り、今一度見る前に、フェリアの目の前には複数人の屈強な男が現れていた。


 「……逃げられるとでも思ってんのか?この阿婆擦れ女が!!」


 口汚く言葉を吐いたのは、先頭を行くスキンヘッドの男。

 浅黒い肌はこの地に住む人間の特徴であり、大きな体躯は軍人を思わせた。

 事実、彼の黄土色のベストはこの国の国軍正規のものであるが、リヒト達が知る由は無い。


 「アンタ等みたいなスカポンタンに触らせるほど、乙女の柔肌は軽々しいものじゃありませんよ!!」

 「んだとォ!?」


 好き放題に言う女だが、肝心の身体は完全にフェリアに隠れていた。

 顔だけ出して舌を伸ばし挑発する女に、男達は怒り心頭、といった具合だ。

 しかし、当人らの関係性を全く知らないリヒトとフェリアだけが、呆然とその様子を窺っていた。


 「オイ、テメェ!女だろうが、そいつを庇うなら容赦はしねェぞ!!」

 「いや、そんな気は無いが」

 「ちょっと!乙女のピンチよ!?ちょっとぐらい協力してくれてもいいじゃないの!」


 恫喝する男だが、フェリアはさらりと流す。

 それに否定の言葉を投げた女は、どうにも酷く怒っているらしい。

 フェリアが、やれやれ、と溜息を吐いた。


 「面倒だ!全員、やっちまえ!!」


 気付けば辺りに居た人達は全て遠巻きに喧騒を眺めていた。

 そして、男の言った“全員”には、遠巻きに離れなかった自分が含まれていることを理解し、リヒトは溜息を吐く。

 猛然と腕を振り上げる男に対し、それを制止しようと一歩を踏み出したとき。

 その場に居た全員の耳に、頭の割れるような甲高い音が響いた。


 「きゃぁああああっ!?」

 「な、何だこりゃあ!?」


 狼狽する、謎の女とリヒト。

 対して冷静なフェリアと、二人ほどではないが焦りを見せる男たち。

 そして何よりも、周囲で遠巻きに観察していた人間たちが、慌しく動き始めた。


 「成る程、これは警報だな。この町に爆撃機でも飛んでくるのだろう」

 「冷静に言ってる場合じゃ―――のわっ!?」


 フェリアが冷静に考察を述べたが、その言葉は半分ほどもリヒトの耳に入っては居なかった。

 知らぬ間に人の流れは大河となり、リヒトや男たちを包んでいたのだ。

 喧騒が既に轟音と化し、フェリアとリヒトの会話を阻む。

 そして、流れは次第に激流と化し、二人の間を隔てるように太くなっていった。


 「―――おい!フェリア……―――っ!!」


 それ以上言葉を届けることも出来ず、リヒトは人波に飲まれたのであった。






      *       *       *






 路地を抜けた先にあった屋台の中で、二人の女性がベンチに腰掛け会話していた。


 「いやぁ、助かりましたよ!どうにか、あの馬鹿どもも撒けたみたいで」

 「そうか」


 フェリアの正面で、女は心底安心したようにからりと笑った。

 年の頃はまだ若く、金色の髪がいたるところで自己主張激しく跳ねている。

 その姿から想像できるのは、そそっかしいものであったが、実際そうなのであろう。

 服装を見れば、この国とは明らかに違う、異国感丸出しのラフスタイルだったのだから。

 が、そのことについて言及できるほど、フェリアの服装も馴染んでいるとは言いがたかったのだが。


 「私はリラ・アーノート。フリーのジャーナリストをやってます」


 リラは薄い胸を張り、自慢げに笑った。

 そのしたり顔に思わず、フェリアは苦笑する。

 尤も、その苦笑はその表情が殆ど変わる事は無く、リラに気付かれる事は無かった。


 「貴女は?」

 「フェリアだ」


 リラの期待を込めた眼差しに耐えかねて、フェリアは名を名乗る。

 出来ることならば今直ぐにリラを振り切ってリヒトと合流したいのであるが、それが出来ない。

 先ほどから食い入るように見つめてくるリラを前にして、逃げられるほどフェリアは大胆不敵ではなかった。


 「で、フェリアさん。貴女、この国の人間じゃあないでしょう?」


 答えるのも億劫で、首肯だけで返した。

 まるでクイズ番組で正解したかのごとく大げさに喜んだリラを尻目に、気付かれないように溜息を吐く。


 「ジャーナリストの勘は鋭いですよ!」

 「……別に、普通だと思うがな」

 「何か言いました!?」

 「……別に」


 リラの迫力に負け、思わず首を横に振る。

 本当にジャーナリストかと疑いを掛けるほどに、彼女は猪突猛進であった。


 「じゃあ、貴女はこんな噂を知ってますか?」


 声のトーンを変えて、リラは続ける。


 「この紛争に決着をつけるために、軍部がジョーカーマシンを新たに用意したって話」

 「………!」


 思わず、フェリアは息を呑んだ。

 確信に近い情報が、意外な人間の口から出されたことに、驚きを隠せない。

 が、それでも、フェリアはポーカーフェイスを保って言った。


 「……知っている」

 「そのジョーカーマシンが“ただの”ジョーカーマシンでは無い、って事も?」

 「ああ」


 短く答えた。

 無論、フェリアの返答は全て推測の元に打ち出されたものであり、合否を判断するには直接それを見るしかない。

 だが、今は、少しでも“アルカナエンジン”に辿り着くための情報が必要であった。

 いざとなれば、リヒトとの別行動も辞さない。

 そんな気持ちが、フェリアの胸中に渦を巻いていた。

 一方、そんなことは露知らず、リラが隣で子供のようにはしゃいでいる。


 「やっぱり、ジャーナリストとしての勘が冴えてるわ!この山場、頂きね!」

 「嬉しさに水を差すようで悪いが、まさかこの調子で他の人間にも聞いて回っていたのか?」

 「え?そうですけど?」


 それが何か、とでも言いたげに首を傾げるリラ。

 フェリアは内心驚きながら、同時に納得していた。


 「道理で、あんな荒くれ男に目を付けられる訳だ」

 「ちょ、私は悪くないですよ!アイツらがですねぇ……!!」


 以後、暫く続いた男たちへの罵詈雑言を聞き流しながら、フェリアは考える。

 デイブレイクは果たして、本当に紛争へと介入してくるのか。

 しかも、わざわざ“軍部”への助力という形で。

 それはつまり、デイブレイクは小国ながらも、国の中枢への影響力を持っているということだ。


 組織力の高さに驚き、そして、改めて考える。

 果たして、一構成員に過ぎなかった自分自身が、牙を突き立てる事が出来るのか。

 答えは、否。

 圧倒的な力を前にすれば、フェリアなどただの女性に過ぎない。

 だが、彼女の掌にはまだ、希望が残されている。


 “英雄”にして“切り札(ジョーカー)”、リヒト・シュッテンバーグ。

 “稀代の天才”にして親友、ハインリッヒ。

 そして、“外なる子(アウトオーダー)”オルタ。


 三人の助力があれば、或いは。

 デイブレイクを瓦解させることも、可能かもしれない―――


 「ちょっと!聞いてます!?」


 フェリアの思考はリラのがなる声で中断させられた。

 やれやれ、と肩を竦めながらも、隣に座るリラへと向き直る。

 その瞬間―――リラの背後から、一人の男が現れた。


 「むぐぅっ!?」


 そして男はフェリアが応戦するよりも早く、リラの口を塞ぎ、拘束した。

 突然のことに身悶えるが、リラの力ではその男の拘束を破る事は出来ない。

 そしてもう一人、別の男が現れてフェリアに言う。


 「お前がフェリアだな?」

 「貴様ら、何者だ?」

 「一緒に来てもらおう。拒否権は無い」


 その言葉に答える気は無いのか、男は淡々と言葉を紡ぐ。

 有無を言わさぬ男の物言いに、フェリアは一瞬考え込むかのように沈黙した。

 が、目に涙を浮かべるリラの姿を見て、自嘲気味に首を振って両手を挙げる。


 「……仕方が無い。危害を加える気は?」

 「無い」


 短い問答と共に、二人の姿はその露天から消えた。

 後に残されたのは、人込みに紛れたときに壊れたフェリアの携帯電話。

 それと、注文者が居ないという状況に疑問符を浮かべる露天の店主のみであった。







      *       *       *







 フェリアと逸れ、約五日。

 既にそれだけの時が経っているのにも関わらず、リヒトは何一つ探し出せていなかった。

 発見したことと言えば、この国の兵隊は酷く野蛮で横暴なチンピラ崩れであること。

 そして、異国民ゆえか、彼らに自分自身が絡まれやすいということのみだ。

 だがその二つの情報は、肝心の探し人、探し物共に繋がらなかった。


 「あぢぃー……クソ、一体、俺が何をした……?」


 沿道に座り込んで、リヒトはコートを脇に抱えたまま項垂れた。

 そんな彼の姿に、荒くれの軍人達の間で“死神”という渾名が付いていることを知る由は無い。

 絡んでくる軍人を悉く力技で排除した結果である。

 本人としては五月蝿い蝿を追い払っただけであったが、そのネームバリューは確かに、この町に浸透していた。

 そして、この町に居るのは軍人だけではない。


 「もし、そこの御方。随分とお困りのご様子ですが、如何しました?」

 「……あン?」


 この地でリヒトに話しかけてくる人間は、基本的に敬語は話さない。

 それが果たして民族柄なのか、単に性格ゆえなのかは分からないし、リヒトは気にしてもいなかった。

 だから、いつもならば問答無用で胸倉を掴む手を抑えた。


 「私に協力できることならば、何なりと実行できますが?」


 独特の口調と訛りを持つ男は、今までと同じ浅黒い肌だった。

 が、頭に巻きつけた緑色のバンダナの下に潜んでいる細目は、今までの誰よりも限り無く鋭い。

 リヒトは見上げて、開口一番にこう尋ねた。


 「テメェ、軍人じゃないなら……誰だ?いや、違うな……“何処”のヤツだ?」

 「鋭いですねぇ」


 リヒトの言葉に満足したか、男は頷き、嬉しそうに口の端を上げた。

 その様子を怪訝そうな目で眺めるリヒトであったが、その正体には見当が付いていた。


 この地で起こっている紛争。

 そもそも、紛争とは相手が居ることで初めて起こる“戦い”という行為だ。

 ならば、現在この地で正規軍と争っているもう一方の組織は何か。


 「私は“人民開放部隊”の隊長をしております。イナドと申します」

 「そうかい」


 リヒトは内心瞠目する。

 何故、わざわざ組織のトップに当たる存在がコンタクトを取ってきたのか。

 が、表情には全く出さず、己の心の内のみでその言葉と意図を反芻した。


 「意外と驚かれませんね。サプライズが必要だったでしょうか?」

 「ああ、そうだな。驚かせるには一味も、二味も足りなかった」


 リヒトはつんけんとした言葉を返す。

 その男の意図が読めないのだ。

 “英雄”と呼ばれたリヒトに接触するのならば、やはり、その能力を目当てにしているのか。

 だが、リヒトが易々と紛争に介入できるはずも無い。

 どうあっても、リヒトは紛争の協力はしない考えであった。


 「ならば、この話を聞けばどうでしょうか?」


 が、気になる。

 何故、こうも、イナドと名乗った男は自信満々の笑みを浮かべているのか―――


 「貴方の探し人であるフェリアさんを預かっていると言えば、少しは驚いてくれるのでしょうか?」

 「………!」


 事無げに言うイナドに、今度こそ、リヒトは掴みかかった。

 何故、その言葉を聞いただけでそうしたのかは分からないが、ただ、怒りが膨らんだ。

 目の前の男がもしも、フェリアに何か危害を加えているのであれば―――


 「落ち着いてください。我々は、何もしておりません。保護しているだけです」


 その言葉を聞いても、リヒトはその眼光を緩めなかった。

 警戒を解く事無く、静かに言う。


 「ああ、驚いた。物凄くな。だから、一つだけ聞く。クソ女に会うには、どうすればいい?テメェの要求は何だ?」

 「要求なんて、ありませんよ。私は唯、貴方が困っていたので助けようと思っただけです」


 胸倉を掴まれたままでも、イナドの笑顔は崩れていなかった。

 この状況で眉の一つも動かさないのは、胆力の賜物か、相当の自信を持つのか。

 その様子に観念したのか、リヒトはその腕を下ろして息を吐いた。


 「……案内しろ」

 「ハイ、分かりました」


 崩れた襟元を直しながら、イナドはにこりと笑った。






やっぱり三話で一つのエピソードとすることにしました。

二話だと走り気味になってしまうので……。



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