第29話 騒がしいチーム
鳳堂響の加入が決まって数日後。
BLUE HAWK本部では契約手続きや住居の準備も終わり、本格的なチーム活動へ向けた環境整備が進められていた。
その日、選手用フロアでは天城蓮がいつものようにPCへ向かっていた。ヘッドセットを装着し、ランクマッチを回し続ける。画面の中では激しい戦闘が繰り広げられているが、蓮の表情はほとんど変わらない。
キーボードを叩く音。
マウスを動かす音。
静かな空間だった。
しかし、その静寂は突然破られる。
「おはよーさん!」
フロア全体に響くほどの大声だった。
蓮は振り返らない。
誰が来たのか分かっていたからだ。
今日から正式に合流する鳳堂響。
予想通りの登場だった。
「無視!?」
「久しぶりやのに!」
響は大袈裟に肩を落とすが、蓮は視線をモニターから外さない。
「昨日も話した」
「それとこれとは別やろ」
「別じゃない」
「冷たない?」
「普通」
「絶対冷たいわ」
響は勝手に隣の席へ腰を下ろし、蓮の画面を覗き込んだ。
そして数秒後、呆れたように声を上げる。
「うわ、また勝っとる」
「ランクだから」
「そのランクで勝てるのがおかしいねん」
蓮は小さくため息を吐いた。
昔から変わらない。
ランクで当たった頃も、初めて話した時も、響はずっとこんな調子だった。
騒がしい。
だが不思議と嫌ではない。
その時、別方向から低い声が飛んできた。
「朝からうるせぇな」
白河大牙だった。
響は反射的に振り返る。
そして固まった。
「……え?」
「ん?」
大牙も眉をひそめる。
「何でお前おるん?」
「それ俺の台詞だろ」
「加入したん?」
「した」
「マジで?」
「マジだ」
「お前も?」
「お前も」
数秒の沈黙。
そして次の瞬間、響が腹を抱えて笑い出した。
「めっちゃ面白いやん!」
大牙は露骨に嫌そうな顔をする。
「面倒くせぇ……」
「何がやねん」
「全部だよ」
響は楽しそうに周囲を見回した。
「日本最強タンク」
「日本最強DPS」
「日本最強DPS」
「最後おかしいだろ」
大牙が即座に突っ込む。
だが響は真顔だった。
「俺や」
「自称だろ」
「未来の話や」
「うぜぇ」
大牙は呆れたように椅子へもたれかかる。
蓮はモニターを見つめながら口元を少しだけ緩めた。
騒がしい。
本当に騒がしい。
だが悪くない。
少なくとも以前より部屋はずっと賑やかになった。
その頃、別室の会議室では佐藤誠司と朝比奈美月が監視モニター越しに選手たちの様子を見ていた。
「賑やかになりましたね」
美月が笑う。
誠司も頷いた。
「そうだな」
天城蓮。
白河大牙。
鳳堂響。
三人とも性格はまるで違う。
蓮は静かで冷静。
大牙は不器用で真っ直ぐ。
響は騒がしくて負けず嫌い。
だが共通している部分もある。
勝ちたい。
世界一になりたい。
その気持ちだけは全員同じだった。
誠司はホワイトボードへ視線を向ける。
そこには現在のロスターが書かれていた。
DPS 天城蓮(Rei)
DPS 鳳堂響(KING)
TANK 白河大牙(TIGA)
まだ三人。
チームとしては未完成だ。
サポート二名。
そしてフレックス。
世界王者監督パク・ミンジュンへ再び会いに行くためにも、残りのメンバーは必要だった。
だが数週間前を思えば大きな前進だった。
世界一を目指すと言いながら選手が一人もいなかったチームが、今では日本トップクラスの才能を三人も集めている。
「次も探しますか」
美月が聞く。
誠司は迷わず頷いた。
「当然だ」
その時だった。
机の上に置かれたスマホが小さく震える。
SKYLINE。
新着メッセージ。
誠司は画面を確認し、わずかに目を細めた。
その変化に美月も気付く。
「社長?」
誠司はスマホを机へ置いた。
画面には一つの名前が表示されている。
ANGEL
競技シーンでも有名な女性プレイヤー。
日本最高峰のサポート。
派手なプレイよりもチーム全体を勝たせることに長けた選手だった。
誠司は静かに笑う。
「次が来たな」
世界一への道はまだ遠い。
だが確実に前へ進んでいる。
BLUE HAWKの挑戦は、まだ始まったばかりだった。




