普通の女子高生だがUFOを目撃した
「昔はさ、偽のUFO写真を作るにも手間がかかって。模型を作って上から吊るしたり、投げてる瞬間を撮ったりして『これがUFO写真です!』って言ったりしてたんだって」
「あー、後は窓枠とか風景にUFOの絵を貼り付けたりとか?」
「そうそう。そういう写真はだいたい、妙にピントが合ってるから慣れてる人ならすぐ偽物と見抜けたらしいけど……今の時代じゃAIとかアプリで誰でも簡単に偽UFO写真が作れるし。逆に、本物があっても信じてもらえないかもね」
「じゃあさ、今うちらの前にいる『これ』もアップしたって誰も信じてくれないかな?」
言いながらみいちゃんは、空に浮かぶ銀色の円盤にレンズを向ける。
たまには学校と違う場所でダンス動画を撮ろう。
そう提案した私はなんとなく、近場にある丘の上へとみいちゃんを誘った。遠足やピクニックで重宝する、景色のいい地元住民の憩いの場。程よい晴天、特に人が多すぎるということもない絶好の撮影日和。きっと素敵な動画が撮れるだろう、と思ったのだけれど……飛行機よりはやや大きめ、けれど手に届く距離にはないらしいその未確認飛行物体にみいちゃんはスマホのカメラを向ける。
「とりあえず、浮いてるだけで害はないっぽいね。加工とか言われるだろうけど、アップするだけしてみていいかな?」
「やめといた方がいいんじゃない? そういうUFO関連の決定的な証拠を握っちゃうと、黒い服の男たちが現れて消されるって都市伝説あるし」
「それ、MIB? あのコーヒーのCMでお馴染みの彼と、アカデミー賞俳優の彼が二人一組で来てくれるの?」
「さすがに、それはないと思う」
日本でも大人気の大物俳優が二人も来ることはないだろう、映画じゃないし。
そんなことを考えている横で、能天気にカメラを向け続けるみいちゃんは「ならあの円盤を背景に、ダンス動画撮ったらバズるかな」と言い出す。
「円盤を背景にするなら、やっぱりあの曲とあのダンスでしょ」
言うが早いかみいちゃんは「テーレレレーテーレレレーテーレレレーテーレレレー……」と歌い始める。
「テレレレーテレレレーテレレレーテレレレー……」
メロディーに合わせて体をくねらせ、踊るみいちゃんは両手を頭の上で組みぐるぐる回し始める。
「……テーレーテーレーレー……ゆぅ」
「ふぉぉぉぉぉっ! それ以上言ったら色々ダメだから」
ポーズを決めようとしたみいちゃんを、私は全力で止める。
「そんなに慌てないでよ、今ならまだインストゥルメンタルの範疇だからギリセーフでしょ」
「いや、危ないから。某妖怪アニメのお蔵入りになった回で、その歌をネタにしてたことあるし」
「んー、それじゃあどうしよう」
「どうしようもないでしょ……空飛ぶ円盤なんて前にしたって、うちらみたいな学生にできることなんてないし。攻撃も接触もしてこないなら、とりあえず放置が最適解としか」
せっかく珍しいものが見れたのに、とみいちゃんはむくれてみせる。だがただの女子高生である私たちにできることなど、それぐらいしかない。
「UFOなら、誰かあの中に乗ってるのかなぁ」
「ベタにエイリアンとか? タコ型で足がいっぱいあるタイプか、アーモンド型の目でつるっとしたスタイルのタイプか……」
「わからないよ。人型とかカエルっぽい見た目とか、三つ目で触覚が生えてたりするかも」
「いずれにせよ未知との遭遇ってやつだね。でもそうなったら逃げるしかなくない? 相手が友好的とは限らないわけだし」
「むしろUFOそのものが怪物でこっちが食われるかもしれないしねー」
話している間も円盤は、宙にじっと佇んだまま動かない。まるで日常の中に、コラ画像で無理やり非日常を捻じ込んだかのようだ。それでも日常の中で生きるしかない私は、みいちゃんと適当に会話を続ける。
「やっぱりUFOと言えば宇宙からの来訪者だよね。宇宙っていえば私、あの無限の彼方へ向かう宇宙飛行士のオモチャを思い出すな。相棒は保安官で……」
「ちょくちょく危険な発言するのやめてくれない? また別の団体に消されるから」
「うーん。うちらが消されたら、真っ先に誰が疑われるかな」
「既に、心当たりが複数出てるからね……」
色々な会社のことを思い浮かべていたら、突然UFOが白い光に包まれる。かと思うといきなりその姿が消えて、「あっ、消えちゃった」とみいちゃんが呟いた。
「げ、もう夕方じゃん。結局、今日はダンス動画撮れなかったね」
「さすがに明日はUFOいないだろうし、また明日撮りなおせばいいでしょ」
「そっか。じゃあまた明日、出直そうか」
それだけ話して、私たちは何事もなかったかのように丘の上を後にする。
とんでもない非日常に遭遇したところで、相手が何もしてこないならこちらも何もしない。なぜなら私たちはただの人間、普通の女子高生でしかないから。
その現実を確認したところで、私とみいちゃんはいつもの「日常」に戻っていくのだった。




