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1-5,粉骨砕身

中学生が書いた文章なので、何処か変なところがあるかもしれません。ですが、私に作れる中で一番面白い小説を書いたつもりですので、この話だけでもぜひ読んでください。

 廃旅館の入口を通った瞬間、強い悪臭が私を襲う。そこはフロントだった。


 外から見た印象通り中も相当古びていて、何故か多くの物が散乱している。明凪村が廃村になったのは土壌悪化が原因だから、この廃旅館が荒れている理由はないはずなのだけど。


 やっぱり零空ちゃんの姿は見えなかった。かなり奥へと進んでしまったのだろうか。この廃旅館は外から見た限りかなり広そうだったから、中で零空ちゃんに会えるかとても不安だ。


 村に入ったときとは比べ物にならないほどに強い寒気が、その不安を加速させていた。


 足の踏み場を探しながら、私は奥へと進む。

 フロントを抜けると、長い木製の廊下に出た。壁の左側には客室へ繋がる鍵扉があったが、今は鍵が空いているようだった。

 でも、今は零空ちゃんと合流するのが第一なのだから、客室には入らず長い廊下を歩く。同じような景色が続くからか、まるで進んでいるような気がしない。


 強くなり続ける寒気だけが、私が目的の怪異に近づいていることを感じさせていた。


 突然、少し遠くからガシャンと何かが崩れるような音が聞こえてきた。そして、金属のぶつかり合うような音も。これはきっと戦闘音だ。


 私は大急ぎで音のする方へと駆け出した。階段を上がり、廊下を全速力で駆け抜ける。


 たどり着いた先には、やはり零空ちゃんがいた。ちょうど今黒い影を全滅させたところのようで、引き抜いた刀をしまわずに切っ先を床に向けていた。


「零空ちゃん!良かった、合流出来て…」



 30秒。零空ちゃんは私を凝視しながら、ずっと黙り続けている。気まずい沈黙に耐えられず、なにか話そうと必死に話題を探す。


「そ、そういえば零空ちゃん、なにか見つかった?」


 すると、零空ちゃんはある客室の古いブラウン管テレビを指さした。


「もうここに電気なんて通っていないのに、あのテレビはずっと砂嵐を映してる。」




***

(…やっぱり、おかしいと思ってたんだよね〜)


 白魅は隣町のレコードショップに来ていた。その手には、一つのビデオテープが握られている。やや新しいこの店の雰囲気にそぐわないほど古びたそれは何故か店の入口付近に置かれていて、私の目にはとても不自然に見えた。


(そもそも、特に有名な肝試しスポットでもない明凪村跡に20人も行ってる時点で違和感はあったからね〜。軽い洗脳の能力も掛かってるし、これはクロで間違えなさそうかな〜)


 このビデオテープには大きく分けて3つの効果をもつ洗脳の能力がかけられていた。一つは、多くのCDの中に紛れても違和感を感じられなくする効果。もう一つは、このビデオテープに底知れない魅力を感じさせる効果だ。

 最後の一つはおそらくビデオテープを再生したときにだけ発生するものだが、今でもある程度の効果の推測はできる。


 きっとこの怪異は、ビデオテープを再生したときに発生する洗脳効果で再生者を明凪村跡内のある場所へと呼び込み、食っていたのだろう。


 そしてそのある場所というのが、メルナたちが入っていったあの廃旅館だ。


(”貞子さん"なんて有名な怪異、あの子達にはちょっと荷が重いかな〜。)




***

 その砂嵐を映し続けるテレビを見た瞬間から、背中が凍りつきそうなほどの寒気を感じている。魔力探知ができない私にも、直感的にこのテレビが恐ろしいものだとわかった。


「零空ちゃん!これ…」


「分かってる。このテレビは怪異の息のかかった魔具か、怪異そのものでしょ。」


(なんか危なそうってことしか分かってなかったんだけどなぁ…)


「こんなもの、さっさと壊すに限る。」


 そう言うと、零空ちゃんはテレビの方へと歩き、刀を振り上げた。


「ま、待って!そんな無警戒に近づいたら危な──」


 その時。砂嵐を映し続けていたテレビの画面が、唐突に夜の森に切り替わったのだ。


 零空ちゃんの動きがピタリと止まる。信じられないほどの寒気が私を襲い、金縛りにあったかのように動けない。まもなく全身が震え始める。

 テレビからジージーという低い音が鳴り響く。私も零空ちゃんも、ただその画面を見ていることしかできない。


 画面の中にある井戸の底から、人の手とは思えないほど白い手が這い出てきた。そして、少しずつその全貌が見えてくる。

 真っ黒な長髪で顔は見えず、白装束に身を包んでいる女性。その姿は都市伝説として語られる貞子さんそのものだ。


 井戸から完全に這い上がった貞子さんは、画面の奥の方にあった井戸からこちら側に向かって走り始めた。そして画面に張り付くほど近づいたとき──貞子さんの髪の一部がテレビから飛び出してきた。


 数秒のうちに、貞子さんの上半身がテレビから這い出てくる。貞子さんの金切り声が廃旅館中に響き渡ったとき、やっと私達の体は動いた。


 零空ちゃんはすぐに客室の入口付近まで一瞬で下がる。

 その間に貞子さんは完全にテレビからこちらに出てきていて、床に届くほど長い髪がカサカサと音を立てている。


「零空ちゃん、逃げよう!白魅さんと合流しないと!」


 返事はなかった。零空ちゃんの顔はいつにも増して真剣なものになり、完全に貞子さんの動きに集中している。きっと私の声は届かなかったのだろう。


 貞子さんがこちらに這いずってくる瞬間、それに合わせて零空ちゃんも貞子さんの方へと駆け出した。


 貞子さんが大きく振るった手をかろうじて回避し、その姿勢のまま貞子さんの腕を切り落とそうとする。しかし見かけにそぐわないほど硬い貞子さんの腕に刃が入らず、振り弾かれてしまった。刃物を弾いた貞子さんの手には、傷一つない。


 このくらいは想定内というように、零空ちゃんは特に驚いた様子は見せない。


「《重力操作・重心》」


 零空ちゃんがそう唱えたとき、零空ちゃんの瞳が深い紫色へと変わった。そして、零空ちゃんの刀の方へ私の髪が吸い寄せられる。それと同じように零空ちゃんの周りの小物が零空ちゃんの刀へと引き寄せられていく。


 零空ちゃんは貞子さんに向かって再び刀を振り下ろす。貞子さんの身が零空ちゃんの刀に食い込んでいき、そのまま片腕を落とした。


 貞子さんの悲鳴が廃旅館中に響き渡り、部屋の奥へと後退する。零空ちゃんは追撃しようと前に踏み出そうとする──が、その足がピタリと止まった。


 床から生えてきた真っ白な手が、すごい力で零空ちゃんの足にしがみついていたのだ。

 零空ちゃんが刀でその手を断ち切ろうとしたとき、壁から新たに生えてきた手が零空ちゃんの腕を掴む。四肢がすべて封じられた。


「っ…!」


 貞子さんの落とされたはずの腕は気づけば再生していて、余裕そうな様子でゆっくりと零空ちゃんへと迫る。零空ちゃんは抵抗しようとするが、四肢が引きちぎられそうなほどの力で引っ張られていてびくともしない。



 零空ちゃんが命がけで戦っているときも、今まさに死んでしまいそうなときだって、私は指を咥えてそれを見ていることしかできない。

 私は普通の女の子だ。特別な訓練だってしていないし、屈強な体を持っているわけでもない。


 この廃旅館に入る前の白魅さんの言葉を思い出す。「助手一号くんは、さっきの黒い影程度なら簡単に倒せるくらい強いと思うよ。」


 あまりにも根拠のない言葉。そんなわけないって、自分でもわかってる。


 それでも、今はその言葉を信じるしかない。私が強いと信じてあの怪異に一矢報いなければ、零空ちゃんは死んでしまうのだ。



──銀のナイフを逆手に構える。そして全身全霊で踏み込み、今にも零空ちゃんの左胸を貫こうとしている貞子さんの腕に力強く突き刺した。


「はぁぁぁぁぁぁ!!」


 我ながら全く可愛くない野太い声が漏れる。

 持てる力の全てをナイフに集め、思いっきり振り抜いた。青い血が飛び散り、切断された貞子さんの腕が宙を舞う。


 そして、驚いた様子の貞子さんを渾身の力で蹴り飛ばした。


「零空ちゃん!」


 力を込めて零空ちゃんを拘束している腕を切り落とすと、零空ちゃんは解放された。


「…ありがと。」


 零空ちゃんは少し驚いたような反応を見せたあと、小声でそう言った。


 私が「どういたしまして」と言うより早く、貞子さんがこちらに飛びかかってきた。長過ぎる黒髪が私の視界を覆い、鋭い爪が私の顔に迫る。


 ガキンと金属がぶつかり合う音が響き、貞子さんの黒髪が遠ざかる。そして私の目の前には、零空ちゃんの刀があった。


「借りは返したから。」


「零空ちゃん…ありがとう!」


 しかし、よく見ると零空ちゃんの脇腹から少々血が漏れていた。私を助けてくれたときに怪我をしてしまったのだろうか。


 そんなときでも貞子さんが待ってくれるわけがなく、再び私達の方へと飛びかかってきた。


 壁から床から生えてくる腕をギリギリで躱し、貞子さん本体の猛攻に耐える。あれからまだ何分も経っていないはずなのに、私は息切れ寸前だった。

 零空ちゃんもそれは同じなのに、貞子さんの方は全くの無傷。辛うじて切り込みを入れても、体にナイフを突き刺しても、僅か数秒で再生してしまうのだ。


「はあ…はあ……。零空ちゃん、逃げよう。このままだと、死んじゃう!」


「今の体力でこいつから逃げられると思ってんの?背中を向けた瞬間、拘束させて終わり。わかるでしょ?」


 戦うしかない、零空ちゃんはそう言いたいのだろう。でも、このまま戦いを続けて貞子さんを倒せる可能性のほうが遥かに低いと私は思う。


 どちらにしても、私達が無事に生きて帰れる可能性が低いことだけは明らかだった。


 私の動きは徐々に鈍くなり、とうとうその両足を床から生えた腕に掴まれてしまった。



 絶体絶命の刹那、銃声とともに廃旅館の窓が割れる。まもなく放たれた二発目の弾丸が貞子さんの心臓を貫き、貞子さんは奇声を上げながら床に倒れ伏せた。


「やっぱり苦戦してるね〜、大丈夫?」


 何故か浮遊しながら窓から入ってきたのは、白魅さんだった。


「白魅さん!来てくれたんですね!」


 私は喜びの声を上げる。白魅さんは、苦しみながらも這いずる貞子さんを見据えた。


「核は心臓じゃなかったか〜。なら、頭に核があったりするのかな」


 白魅さんは少し考えたあと、「まあ、全身焼き尽くしちゃえばいっか〜」と言い、未だ立ち上がれない貞子さんに手のひらを向けた。


 ボッ、という発火音と共に、貞子さんの体が炎に包まれる。その炎は何故か建物には燃え移らず、みるみる間に貞子さんだけを燃やし尽くす。


 その炎が消えたとき、そこには貞子さんの姿はなかった。それどころか焦げ跡さえも残っておらず、まるで初めからそこに何もなかったかのようだ。


「さ、これで終わりだよ〜。」


 私達はその光景を呆然と見ているしかなかった。


「し、白魅さん!?そんなに強いならはじめから来てくれればよかったのに〜!」


「ごめんごめん、助手1号くんに怪異と戦える力を身に着けてほしかったんだ〜。戦ってみたら意外と動けたでしょ?」


 あと少しでも白魅さんが来るのが遅れていれば私は死んでいたかもしれないのに、なんて無責任な。


「ずっと黙りこくってる助手2号はどうしたのかな?」


 零空ちゃんは俯いていた顔を上げる。小さく、だけどよく通る声が白魅さんを捉えた。


「それだけの力がありながら、あんたは周辺の怪異狩りだけで満足してるわけ?」


「…それは、どういう意味かな〜」


「どれだけ怪異を狩ろうが、今もこの世界の何処かで怪異は生まれて、人を殺してる。その根源を断たずにその場しのぎを続けても、何の意味もない。」


 零空ちゃんと入れ替わるように、今度は白魅さんが黙ってしまった。白魅が次に口を開いたのは、30秒もしてからだった。


「…そういうことは、私と同じくらい強くなってから言おうね〜。怪異について何も知らない君が言っても、それはただの理想論だよ。」


「………」








 廃村から出て、電車に乗ったところで、やっと現実に戻ってきたような気がした。電車の揺れが心地よく、人の気配が私に安心を与える。


 白魅さんの探偵事務所の最寄り駅に着くまで、行きよりも少し短く感じた。


「じゃあ、今日はお疲れ様〜。そうそう、契約書の内容通り、明日から毎日来てもらうからね〜」

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