感染
来月に念願の結婚が控えているのに、黒田さんは
この頃口数が急に減った。
刑事の仕事の基本みたいなのは一応教えて貰えたが、
現場に向かわず控えに回ることが増えた。
課長の采配なので詳しく分からないが。
今日はバディじゃない若いチャラい刑事と組まされた。
20代で刑事なれるのは、よほど成績が良いか適性がないと滅多になれないのだが、たまにこんな子もいる。
「俺スゴいんですよ〜警察学校卒業して、すぐ刑事課だったんすよ!
やっぱり警察は見る目があるんすね〜」鑑識、解剖学、逮捕術などが習得できてるはずなんだが…軽い。
そして、程なく組対へ異動していくのだ。
言っちゃいけないが…チンピラ体質?ヤクザに混じっても浮かない資質を選んでいる気がする。
年取り過ぎるとヤクザの中に混じったら浮いてしまう。
なので若い子も早めに刑事から組対のコースの子を選んでる気がする。
そういう子は、刑事課でしんどい顔をしないのだ。
平気で毎日怒鳴り合い殴り合いの中に身を置く。
気がおかしい人とかもサクサクと捌いていける。
この子もそのコースに入っていくのだろう。
「バディの黒田さん、やばいっすね。」聞き込みした後東新宿のドトールで休憩した。
「なんで?」バディだが、志保は何も聞いてない。
「いや、ウワサっすよ?志保さん来る前、歌舞伎町で乱闘騒ぎがあったんすよ。
10人くらいが薬でキメて暴れてて〜刑事課総出で締めに行ったんすけどね…どうも注射器使い回してた奴らみたいで…数人がB型肝炎持ってたんすよ…」
チャラ男くんは、より声をひそめる。
「黒田さん、乱闘の時にケガしたんですが、どうもそこで感染したみたいっす…」眉間にシワを寄せる。
梅毒みたいに性感染も恐いが、ケンカも結局性交と同じなのだ。
殴り合いとセックスは感染の温床なのだ。
「ウソ…」思わず席を立ってしまった。
黒田さんは結婚式を控えているのだ。
だが、B型肝炎は性交でも感染する。
つまり、これから結婚する奥さんも妊娠して生まれる子も感染させてしまう事になる。
黒田さんの性格を考えるとイヤな予感がする。
志保なんか親や兄弟、会社もウザいので結婚式しなかったような奴だが、黒田さんは式場決めたのは1年前だ。
それから色々細かい事を決め、やっと来月結婚式なのだ。そんな人が、病気なったら…
目の前のチャラ男は、もうすっかりカフェの女の子が好みだとか話題変わってる。
こんな性格じゃないと刑事なんてメンタル的にキツいのだ。しかし、黒田さんは…