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40パンチ

40がらみのパンチ頭にグラサンの絵に描いたようなヤクザである。

何より上半身がゴツい!

腕の筋肉や胸筋が服からでも分かるくらい発達してた。

それで繊細な美しさの100万するドイツ製チャリをメンテしていた。

幼い志保はとにかくそのチャリの美しさに抗いがたく

男への恐怖を忘れて横で見惚れていた。

そんな日々が何日かした頃、男が志保に話し掛けた。

「よし!今日からワシの娘や!」

言うや否やチャリに跨り、志保を脇に抱えて町内を走り出した。

美容室やクリーニング屋、肉屋、八百屋、銭湯タバコ屋まであらゆる店で止まり、

「ウチの娘や。よろしくやで。」と触れ歩いた。

そして家に連れて帰りバヤリースを飲まして貰う。

生まれて初めてジュースを飲まして貰った。

「これ、何?めちや美味しい!」と驚く志保が面白いらしく若い10代らしい奥さんにすぐに酒屋へ走らせた。

酒屋がケースで届けに来た。

それから毎日志保はそのヤクザの家へ遊びに行った。

普通、両親が止めると思うが、父も母も複雑な顔しながら静観していた。

父は銀行融資の条件が家庭を持ち子を持つことだった。

そのためわざわざ別れた母と、よりを戻したのだ。

母はパニック障害があって子育てに自分でかんじがらめに陥って愛せなくて、それを毎夜父に話して泣いていた。

「あの子をどうしても好きになれないの!」

その話を6畳一間でやるから志保に筒抜けだ。

人に抱き上げられ頬ずりされジュースを飲む笑顔をニコニコと眺める男に

志保は「父親」を感じた。

家では正座を崩したことないのに、ここではヤクザのあぐらの上か股間で昼寝したり好き勝手にしていた。

「人に絶対愛される。何を言ってもやっても許される。」そんな安堵感を与えられた。

実際は、家の中では舎弟の男が毎日殴られ、若い19くらいのお姉さんは足で蹴られてた。

腕を組んで足だけで「お前が全然妊娠せえへんから!

若いからすぐ妊娠すると思ったのに!全然や!がっかりやわ!」と言いながらニヤニヤとお姉さんが腹を蹴られてゲーゲー言うのを楽しんでる残酷な男だった。

幸せと不幸せが混在する不思議な空間だった。

銭湯へオールシルバーの多分総ステンレスの自転車で夜の道を走る。

男湯で並んで頭を洗ったり身体を洗ったり、全然イヤらしくなくわが子のように洗ってくれる。

ここは西成なんで5歳児でもエプロンつけたオジサンに急に股間握られたり、

ストリップの広告見てたら、「お前もスポッポンで吊るしたろかぁ?」とか平気で言うオヤジばかりのどスラムだ。

悲しいけど父と風呂に入ったり身体を洗って貰った記憶はない。他の子から噂で聞いてた体験は、全部このヤクザがしてくれた。

帰りに2人でチャリ(その頃には私を前乗せ出来る改造してた)で駄菓子屋でお菓子とジュース飲んで帰る。

親とは1度もしたことない体験。

すごく幸せだった。

でも帰ると玄関でもう舎弟はゲンコツ、お嫁さんのお姉さんは、足蹴り。

ヒドい時は顔面も踏みつけて起き上がろうとするお姉さんの顔面を何度も床に足で踏み潰すみたいにグリグリしてた。

「帰るね…」と言って私は去るしか出来なかった。

後ろで手加減してたヤクザが暴れてるのか?

中から悲鳴が聞こえた。

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