未来へ
黒田さんが住んでたマンションへ向かう。
親御さんと署長達は遺体の引き取りに行った。志保の役目は、自宅に警察への不満や恨みが無いか検め
会社関係の物を回収する役目だ。
ダンボールを持って自室に入る。
部屋の前で一礼する。
「バディの最後の仕事がこれってヒドいっすよ、黒田さん…」呟きながら部屋に入る。
つい昨日まで生活してたはずなのに、綺麗に片付けられ衣服も生活備品、歯ブラシも処分されてた。
硫化水素を作るカビハイターとサンポール以外無かった。その2品と目張り用のガムテープだけ失敗した時用にストックされてた。
「アハハハ、几帳面な黒田さんらしいわ。」笑ったつもりだったが泣いていた。
引き出しに日記も入ってた。備忘録的な雑記で、彼女さんに自分から「別れてくれ!負担だから」と言ったらしい。
「本当に黒田さんらしいなあ〜」ノートを閉じて引き出しに戻した。
会社に戻すようなものは無かった。生前に制服なども全部返していた。
最後まで黒田さんらしかった。
バディらしい仕事も無いまま空のダンボールを持って帰社する。
「顔色悪いよ。もう帰ったら?」沢城さんが顔をのぞき込む。
「でも、検死とか…」バディがどこまでやれば良いのか分からない。
「それは関係少ない人がやるから。仲良かった人はミス増えるからやらないんだよ、普通。」そう言って沢城さんに追い出されるように帰った。
黒田さんでこれだけツラいのに、夫も見送るのを想像すると…
死ぬ方が楽な気持ちが分かる。
「…耐えれるかな?」おっちゃんの死は伝え聞いた話なので、いつか会える可能性が消えただけで
諦めるだけで良かったが。
身近な人に死なれるキツさを味わう。
身体が傷付いてないのに、このもがれたような痛みは何なんだろう?
人間は個々で痛みは共有しないはずだが、半分死体のような気持ちは何なんだろう。
「…強くならないと。これは持っていかれるな、夫の時は。」背筋を正して深呼吸する。
何気なく胸をさする。
この頃、初夏だからか身体が熱くダルかったのだ。
胸焼けも激しい。
と言うか吐きそうだ。
思わず途中下車してトイレで吐いた。
「ショックだったのかな?先輩の部屋見たから?」
だからって吐くのはおかしくないか?
ふと生理が来てない事に気付く。
バタバタしてて、カレンダー見たら生理予定日から15日も過ぎてる!
「!!!」志保は下腹に手をやる。
夫は物静かなギャグ作家だが、やる事はキッチリ毎日やる人だ。
飽きないのか?と聞いてみたら、「ご飯食べない日は無いやろ?」と返された。
特に避妊もしてない。だって毎日なんで面倒臭くなったんだと思う。
帰りに薬局に寄って検査薬を買った。
やはり妊娠してた。
「どうすんの?産むの?」なぜか夫は心配そうだ。
「この子の大人になった姿見るまで、頑張って生きてよ。目標なるやろ?」志保が言う。
「無責任ちゃう?将来恨まれへんかな?」夫も責任感が強い人なので心配する。
「ウチをなめんといて。公務員やで?漫画家なんかより安心やろ?」志保が胸を叩く。
黒田さんの死に沈んでた気持ちがだんだん強い気持ちに変わっていく。
「人が何人死のうが、私が産んでやる!
死が追いつけないほど、産んで育ててやる!」
「すぐ兄弟も作ろね。1日でも元気な内に沢山作ろうな!」志保が微笑んで夫を抱きしめる。
西成のおっちゃんの分と黒田さんとアナタと。
「最低3人は産むからな。」志保が笑うと夫が目を丸くした。
「僕、働かないと!ネタ考えるわ!」夫は原稿用紙に向った。
思えば、ホンマに良い人に会えたと思います。
人生最初で家族以外に関わってくれた人が居たから
今がある。
兄弟は妹だけですが、親に好かれようと勉強頑張って委員長も務めて
親の自慢の娘演じ続けて、今は引きこもりの統失です。
私も自殺出来なかったら、ああなってたんやろなあ〜と思います。
親の自慢になる段階で子育て失敗なんですよね〜気付かない人、今も多いけど。
子供は、親に恥かかしてナンボです。
まあ、ヤクザだから平気で他所の子かっ攫って行けたんでしょうが。
そして、やはり何年経ってもキムタク恐い。