出会い
「晴れて刑事課か!おめでとう!」志保は刑事課強行の係長に上から肩を叩かれて祝福の洗礼を受ける。
男だと腹パンだろうが、女なので気を使ってくれる。
「留置どうだった?キツかったろう?」刑事になるには留置経験は必須なのだ。
犯人の気持ちが分からなくては、結局戦えない。
「でも、お前の最終目的地は組対(組織犯罪対策課)なんだろ?
より狭き門だ。頑張れよ!」今度は前から肩をパンチされる。
インナーマッスルは強い方なので片足で耐えた。
見回しても刑事課に女は2人だけだ。
もう1人は伝説クラスの女性だ。沢城さん。
警察学校では常に座学も射撃も体技もトップだった。
その上、中国語に英語も話せる。
ただ彼女は出世街道を目指してるので組対には希望を出していない。
現場もそこそこで本部研修ばかり行ってる。
「珍しいよな。なんで、お前は組対行きたいんだ?
ドンパチの部署なのに?」組対はヤクザと薬の相手がほとんどの部署なので、相手は銃を持ってる前提で動かなければならない。
なかなかハードな現場なのだ。
「それは…内緒です。また、いつか。」志保は笑う。
「もったいぶるなよ〜バディは2年先輩の黒田だ。しっかり後ついて行けよ!
あっ、結婚もしたんだよな!おめでとう。」色々一度にてんこ盛りの志保なのだ。
その時、事務から志保の書類を渡された刑事課課長のデスクから声がした。
「お前、関西人なのか?全く分からなかった。
それも西成!すげ〜とこの出身なんだな!」志保の本籍地に驚く。
現在では東京でも、日本のスラムとして有名になった西成が志保の故郷なのだ。
まあ生まれて5歳までしか居なかったが。
父は半導体の技術者でなぜか西成で起業したが志保が5歳で諦めて電機大手に再就職したのでそこから東京で育った。
文教地区で西成とは全く違う世界だった。
おかげで場所が違えば常識も人間も変わる事を学んだ。
父も母もビックリするくらい変わり身が早かった。
警察を目指した時、初めて西成の事を思い出したらしい。
「やっぱり忘れてなかったんだ…」母は特に神妙だった。
長屋みたいな場所で斜め向かいに住んでた◯口系暴力団の男の家でほとんど志保は暮らしてた。
父は子供が苦手なので家で仕事してたが遊んだ事も出掛けた事もない。
母も初めて子供で育児ノイローゼ気味だった。
長屋の前の路地で近所の子と遊んでたが、皆はご飯時になると帰ってしまう。
1人になっても家からは声は掛からない。
そんな時、オールシルバーのキラキラの自転車をいつも磨いてる男と目があった。
見たこともない自転車でハンドルまでシルバーだった。
見たことない機器が沢山ついた未来から来た乗り物みたいなだった。
「スゴいやろ?ドイツ製やで。車より高い自転車なんや!」父が半導体のエンジニアなので家中機械だらけだったが、こんな綺麗な機械は見たことない。