(ジェイ×ミチル)「二の腕の話です」
カエルラ=プルーマ最新の魔法レジャー、温泉プール。
さぞや大盛況で混んでいると思いきや、今は誰もいなかった。
ミチルとジェイはプールサイドで呆然としている。
「みんな……戻って来なかったね」
ミチルは大勢の人々がいた数分前に思いを馳せた。
「そうだな」
ジェイは大剣を鞘に収めて濡れないように、パラソルの下に安置する。
何があったかと言うと、プールサイドに突然雑魚ベスティアが現れた。客は一斉に逃走。ジェイが一瞬で蹴散らして、この閑散さ。図らずも、最新レジャーは貸切状態になった。
「でも、いいよね! ベスティアとか忘れようよ、せっかくのプールなんだから」
こんな広いプールに二人だけだなんて、ご褒美過ぎる。ミチルは気を取り直してはしゃぐことにした。
「うむ、そうしよう」
「ワーイ!」
ミチルもジェイもプールに入り、温泉をダイナミックに楽しんだ。
底が浅くて泳げないが、水を掻き分けたり、浮かんだりして堪能する。
「あっ、なんかお肌がスベスベしてきた気がする! 温泉の効能かな?」
ミチルは自分の腕を摩りながらジェイにもそれを伝える。
だがジェイはピンと来ていなかった。
「む? そうか? よくわからない」
「ええー? そうだよぉ!」
非日常にはしゃぐミチルは、ジェイの側まで寄ってきてその二の腕を撫でた。
「ほらほらぁ、ジェイのお肌もチョースベスベじゃあん!」
ミチルはジェイの逞ましい腕を上下にさすさす撫で撫でして喜んだ。
「む、む……」
ジェイが何故か固まっているが、ミチルはジェイの強くて太い腕に夢中。
「ていうか、ジェイの腕かたぁい、すごぉい!」
ミチルが上機嫌でジェイの筋肉質な腕をにぎにぎする。
「う、むむ……」
何故かジェイは頬を赤らめて動けない。
「ジェイの腕って、ほんとに太くてぇ……固くてぇ……逞ましいねえ」
うっとりしながらそんな事を言われると、ジェイのあらぬ妄想が爆発するのだが。
ミチルは気づかずにジェイの二の腕を触って楽しんでいる。
「ミチル……」
「ん? どしたの、ジェイ」
ジェイは焦点の定まらない瞳で、のぼせ上がる頭で、なんとかこの場を取り繕おうとしていた。
「なんだかとてもお腹が空いたのだ、ベスティアを倒したせいで」
「あ、そっか。オレもちょっと減ったかも」
「それから、少し疲れたから休みたいのだ、ベスティアを倒したために」
「う、うん、わかった。じゃあ、上がろうか」
グルグル回る妄想を頭の中で押さえ込んで、ジェイはミチルをプールの外へ連れ出すことに成功する。
ご飯を食べて、一息ついて。
その夜のジェイは、太くて固くて逞しかった。