(アニー×ミチル)「お掃除の後で」
「アニー!」
珍しく声を荒げてミチルが二階に上がってきた。
アニーはダイニングでナイフの手入れをしていたところ。ミチルのやや怒っているような剣幕に、ビビリ散らかしていた。
「な、なに、ミチル? マスクなんかして」
「一階の居酒屋部分、掃除してなさ過ぎ! 戸棚が埃だらけだったよ!」
見ればミチルの格好は少しくたびれている。パーカーからは塵のようなものが舞って、頭には蜘蛛の巣がついていた。
「あららぁ、もしかしてミチルってば、掃除してくれたの?」
呑気な調子でアニーが言うと、ミチルはプリプリ怒って足で床を鳴らして訴えた。
「見るに見かねてだよ! 売り物の酒瓶が埃まみれで真っ白じゃん! あんなのでお客に出せるワケないでしょ!」
「うんうん」
「ていうか、いつ買ったお酒なの? まだ飲めるの? オレは飲めないんだから、アニーがちゃんとチェックしてよね!」
「うんうん」
ミチルは結構真面目に怒っているのだが、それを聞いているアニーはニコニコ笑って頷くだけ。
いいかげんにちゃんとして欲しい。居酒屋の営業をする気がなくても、せめて清潔に掃除して欲しいのだ。
「アニー、聞いてる!?」
「うんうん、怒るミチルもカワイイねえ♡」
「ふぁ……ッ!?」
「そんなに一生懸命俺のために怒ってくれるなんて、ミチルの頭は俺で一杯ってコトでしょ。幸せだなあ♡」
色ボケ倒すアニーにとってはミチルが何をしても愛が溢れてこのザマである。
甘い言葉をかけられたミチルは一瞬怒るのを忘れてしまった。その隙を逃すアニーではない。
「こんなに埃だらけになってまで俺のためにお掃除してくれて……」
アニーは言いながらミチルに近づいて、パーカーをはたいてやる。それから頭についている蜘蛛の巣も払って、ミチルの赤くなりつつある顔を両手で包んで瞳を合わせた。
「ありがと、ミチル。愛してる」
「にゃぁ……!」
忘れがちだがアニーの属性は「ホスト系」である。口説き文句はミチル限定でお得意の戦法。ミチル限定でその効果は天井知らず。
「ほらほら、こんなマスクは外そうね」
アニーの細い指がミチルの耳にかかり、その顔を覆う無粋なものを取り除く。
澄んだ碧い瞳が、桃色に染まるミチルの唇を捉えにかかった。
「……可愛いお口にやっと会えた」
「ふにゃ……」
親指でミチルの唇をふにふにしてから、ちゅっちゅっちゅー♡
「ううぅ……」
あまーいご褒美をもらったミチルはもう何も言えなかった。
「ミチル、座って。あったかいハニーミルク、作ってあげるね」
「むむぅ……」
甘いのの連続で黙らせる気だな、と思いつつミチルは素直にダイニングに座る。
「今夜はご褒美に極上トロあま♡にしてあげるねえ」
「キャァアー!!」
結局ミチルのお掃除大作戦は今日も失敗に終わるのである。