(エリオット×ミチル)「アイス、キケン注意報」
キケン、キケン、高熱注意報!
魔法で作られた小さい雷鳥(ぷちサンダーバードなので、命名ぷっちさん)がミチルの枕元でピヨピヨ鳴いている。
ぷっちさんは、ミチルの熱が三十八度を超えると「キケン高熱注意報」を発令するのだ。
「おー、ミチル。待たせたな。クソ魔ジジイから熱冷ましの薬調合してもらったぞ」
森の魔法使い改め、アルブス魔法最高顧問スノードロップの小屋からエリオットが帰ってきたのは、ぷっちさんがキケンキケンと騒いでいる頃。
「ぷええ〜……」
熱が出ればすぐに薬を飲んで、おでこが冷えるピタピタを貼れた頃が懐かしい。
ミチルはエリオットが出かけている間、高熱を放置されてすっかりグロッキーだった。
「……わりぃ、ミチル。待ったよな。ほら、起きられるか?」
「うう、うん……」
ミチルは高熱をおしてのそのそと起き上がる。エリオットが介助してくれるのが、頼もしくてなんだか泣きそうになった。
「クソ魔ジジイ特製の薬だぞ。これ飲めばすぐに熱が下がるってよ」
「にゃ〜、粉かあ……」
錠剤やカプセルがあった頃が懐かしい。
だがここは異世界。ミチルは超苦い粉薬をむせながら飲んだ。
「……ぶふぅ」
「よーしよし、エライエライ! なんか食うか? 何食いたい?」
ちょっとお兄さんぶっているのが面白い。
ミチルは世話を焼きたがるエリオットを微笑ましく思いながら再び横になる。
「何でもいいぞ、コックに頼んでやる」
「あのね……アイスぅ……」
熱が出た時の定番だ。ミルクたっぷりのバニラアイスなら、栄養補給にピッタリである。
ミチルは出来るかどうかも確かめずにアイスクリームを所望した。
「バニラァ、か、ピスタチオぉ……」
「アイスかあ……」
「ジェラートでもいい〜、ブラッドオレンジぃ……」
「なんだそりゃ」
アイスは通じたが、ジェラートは通じなかった。
それにしてもピスタチオだの、ブラッドオレンジだのとオシャレワードが出るあたり、体調は結構余裕かもしれない。
「まあいいや、わかった。バニラアイスなら出来るはずだ、待ってろ!」
「わあい……♡」
エリオットは元気よく答えて、ミチルの寝室を飛び出した。
ぷっちさんは相変わらず「キケンキケン」と鳴いているが、ミチルは薬のおかげで少し眠くなっていた。
「よおーっし、ミチル! アイスが出来るぞぉ!」
出来る、とは? 出来た、ではなく?
うとうとしていたミチルは、エリオットが何をしようとしているのかよくわからなかった。
「へっへっへ、このバニラクリームをな、おれの魔法で冷やしてアイスにしてやるからな!」
そうか……冷凍庫はないのか。
ミチルは熱に浮かされながら、なんだか遠い所にいるような感覚で聞いていた。
「まあ、氷室から氷持ってくれば、コックが全部出来るんだけどさ」
……何ですと?
「おれの魔法で冷やせば、おれが作ったことになるじゃん?」
……それで?
「ミチルにはおれの手作りを食べて欲しいんだよなっ!」
……やだあ(ジーン)
エリオットの真心にミチルはうっかり涙ぐむ。
なんて優しい気遣い。オレのためにエリオットが一生懸命作ってくれる。
薬よりもそっちの方が効きそうだ。
「じゃあいくぜえ! 我請おう、偉大なる始祖の御力をここに!」
……ん? 魔法が随分と本格的じゃない?
「荒れ狂う氷山の如く、吹雪け零下の花達よ!」
……ちょっと、全体的に寒いかもしんない。
「絶対零度の花束を君に!!」
ビュゴォオオオォオオッ!!
「ギャアアア! 寒いサムイさむいぃいいい!!」
何という事でしょう。
バニラアイスを固めるどころか、寝室全体が氷漬け。
「キケン! キケン! パッキーン!!」
ぷっちさんは耐えきれずに割れてしまいました。さらば、ぷち雷鳥。
「アーッハッハッハ! ちょっと冷やしすぎたな、許せミチル!」
「ちょっとぉ、寒いよぉお! 風邪引いちゃうよぉ!」
「風邪はもう引いてるだろ、ほら、出来たぜ、バニラアイス♡」
何という事でしょう。
エリオットの魔法は間違いなく特級レベル。アイスを固めるのもお手のものでした!
「美味しそうだけど、もう寒いぃいい!」
「あーん♡」
「寒いけど、ぱくーぅうっ(震)」
部屋が激サムで、口もかじかんだけれど。
「あまぁ〜い♡」
冷たいのに、心はあったかくなりました。
「……でも、寒いよぉ(倒)」
「ワー! ミチル!? しっかりしろぉおお!!」
この後、超多忙の王様(炎の魔法使い)が来て、寝室を溶かしてくれました。




