(ジン×ミチル)「添い寝で耐えろ」
「ぽやーん……」
ミチルがさっきからぼおっとしている。
「ぽややーん……」
頬を赤らめて、興奮しているのか。否……
「シウレン、熱があるのではないか?」
「ぽや?」
ミチルの体調を寸分違わず見通す変態、もとい毒舌師範・ジンは心配とともにその額に手を当てた。
「なんと、三十八度五分もあるではないか!」
相変わらず指先が変態。正確に体温を測れる人差し指である。
「ぽえ〜……どおりでえ、クラクラするとおもったあぁ」
「全く、具合が悪いなら早く言いなさい!」
ジンはすぐにミチルを抱き上げた。
体が熱い。高熱ゆえだが、こちらも思わず興奮する……とかは言わずに。
「えへへえ……抱っこぉ……わあーい♡」
「仕様のない甘えん坊さんめ」
熱い体ですりすりされる。シウレンは熱に浮かされているので無意識。
だけど思わず興奮する!……とかも言わずに、ジンは耐えた。
「さあ、シウレン。休みなさい。ちゃんと着替えるんだぞ」
「んんー……」
寝室まで運んでもらったミチルは、高熱のために羞恥心がゼロになっている。
その場で、あろうことかジンの目の前で、シャツのボタンを外し始めた。
「──! な、なまきがえ……ッ!?」
とてつもないチャンス到来。
ああ、だけど。シウレンは病のために意識が覚束ないだけ。
そんな機会に乗じて、待望のお着替え♡を堪能しようなどと……
「んんー?」
シャツをゆっくり脱いでいくミチルの肌から、ジンは断腸の思いで目を逸らした!
「わわわ、儂は薬を持ってくるからな! 良い子で着替えておくんだぞ!」
「はあーい……」
脱兎の如く、寝室から逃げ出す毒舌師範は泣いた。
「おのれえ……! いつか正気のシウレンが自ら脱ぐように仕向けてやるのだ……ッ」
薬を探しながら、毒舌師範は大いに泣いた!
「……シウレン、よいか?」
いつもなら断りもせずにズバンと扉を開けてラッキースケベを狙うのに。
ジンはノックをして声をかけるという偉業を成し遂げた。
「ふあ〜……」
なんとも頼りないミチルの声。
きっと高熱が辛いのだろう、ジンは急いで扉を開けて中に入った。
「よしよし、ちゃんと着替えられたな。偉いぞシウレン」
ちょっとくらい失敗していても良かったのに。
毒舌師範の未練が止まらない。
「さあ、熱冷ましの薬を飲みなさい。飲みやすいように丸薬にしてやったぞ、糖衣付きだ」
ちょっとした団子くらいの大きさの薬になってしまったが、ミチルは喜んでそれを飲んだ。
「あーん、んん……甘いねえ♡」
「ゆっくり寝れば明日の朝には熱も下がろう」
ジンはミチルをベッドに寝かせて、布団をかけてやる。
トロンとした瞳で、ミチルはジンの袖口を掴んでいた。
「せんせ……ここにいてよぉ……」
「もちろんだ、シウレンが眠るまでおるぞ」
優しく頭を撫でながら言うと、ミチルはむずがる子どものように、顔をしかめていた。
「やだあ、ずっと側にいてよぉ……」
「わかったわかった、朝まで側に居てやろうな♡」
「うふふぅ……」
満足げなシウレン、尊い! と叫びたくなるのを我慢して、ジンはミチルのベッドに腰掛ける。
「せんせ、ちょっと寒い……」
「ん、そうか。布団をもう一枚……」
と、思ったが、ミチルはジンの袖口をずっと掴んで離さなかった。
困った。これでは動けない。
「……では、仕方ないな」
ジンは己に言い訳して、ミチルの布団の中に潜り込んだ。
「儂自らシウレンを温めてやろう……♡」
「ああん、あったかぁ……い」
ジンの温もりを感じ取ったミチルは、ジンに擦り寄ってそのまま眠りについた。
「ああ、シウレン♡ 早く元気におなり」
ぎゅうっと抱きしめる、熱い体。
シウレンを蝕む風邪菌など全て儂が吸い取ってくれる! ……ジンはそう決意して、さらにミチルを抱きしめた。
ものすごく興奮するけれど。
病のミチルに無体を働いたら、嫌われてしまう。
ジンは血反吐を吐く思いで一晩を耐えた。
耐えて、耐えて、疲れ果てて……
空が白くなる頃には、ジンも眠ってしまっていた。
「……にゃ?」
朝日が眩しくてミチルは目を覚ます。
ああ、そういえば、昨日は高熱が出たんだっけ。
確か先生が薬を飲ませてくれた。今はとても楽だ。
……そのはずなのに、体が動かない。
「うにゃあ!」
それもそのはず、ミチルはジンにがっちり抱きしめホールドされている。
「ああ、シウレン……」
ジンは少しか細い声で寝言を言っていた。
先生、俺の事が心配で添い寝してくれたんだね……
ミチルがうっかり感動しそうになった時。
「ああ、良いのか、そんな? ああ、最後まで脱いでしまうなんて、あああ……」
なんの夢を見ているんだ、ドスケベ師範はぁ!!
「オラアァア!」
はい、どーん!
ミチルは思いっきりキックして、夢見る変態師範をベッドから落とした。
「一瞬でも感動した、オレがバカだったあああ!」
「ふぁっ、シウレン!? 熱が下がったのか?」
床に転がりながら、ジンはミチルの快癒を喜んだ。
「おかげさまじゃああああ!!」
元気になって何よりです。




