逆ハーレム作ってる巫女姫様の逆ハー要員の婚約者ですが、むしろありがてぇ!!!と思ってたのに婚約破棄しないの!?
早速だが、結論から言おう。
私は逆ハーエンドありの乙女ゲームの世界に悪役令嬢として転生した転生者で、ヒロインも転生者で、なんなら他の悪役令嬢もみんな転生者だった。
そしてヒロインは逆ハーエンドに行く気満々で、私たち悪役令嬢組は全員推しが婚約者ではなかったので争う気もなく、結果ヒロインはみんなに愛されハッピーエンド。
私たち悪役令嬢も不本意な婚約を一方的に破棄され…ることがなかった。
なんでや、むしろありがてぇ婚約破棄してくれと思ってたのに!!!
「え、婚約破棄しないんですか?本当に?」
「そうだ」
「じゃあ巫女姫様との結婚は」
「彼女は誰のものにもならず、『みんなの姫』になる」
「うわぁ…」
ドン引きした私に、婚約者は頭を下げる。
「教会は巫女姫様に『処女』であり続けるよう言い聞かせているらしい。性交により神の加護が失われるのが恐ろしいそうだ。だから結婚は君と…」
「おぇぇぇぇ…」
割とマジに吐きそうになってそれでもなんとか意地で我慢した。
汚い声は出てしまったが、吐瀉だけは回避。
セーフ。
「そ、そんなに嫌か」
「嫌に決まってるでしょう。昔から言ってましたよね、貴方に良い人が出来たら婚約破棄でも婚約解消でもしてお互い違う人生を歩みましょうって」
「いやそうなんだがな、こっちがそうしたくても巫女姫様が…」
「それってそっちの都合だけですよね?」
「…じゃ、じゃあ!あの、ほら、えっと」
彼は既に社交界で巫女姫様の逆ハーレムメンバーだと噂されていて、私と婚約破棄したら後がない。
まともなお嬢さんには巡り会えないだろう。
だから必死なのだろう。
おそらく他の貴公子たちもそうだろうな。
私も困ってるけど、他の悪役令嬢のみんなも今頃困ってるだろうな。
まあでも私以外のみんなは婚約破棄か家出に舵を切るだろうけど。
「…ちなみに、他の逆ハー……失礼、皆様のご様子は?」
「ロイは婚約者に一家総出で訴えられて負けたらしい」
公爵令息の婚約者レイチェル様は家族を巻き込んで大暴れして無理矢理にでも婚約破棄を勝ち取り、ついでに賠償金も得たそうだ。
「他は?」
「ルークの婚約者は家出したらしい」
騎士団長の令息の婚約者ローズ様は家出したらしい。
多分この後、自分の事務能力の腕一つで他国で立身出世するだろう。
あの人は知識チートのある転生者全員の中でも一番有能だったから。
「リカルド様の婚約者のユーミリア様は?」
「そっちも家出したらしい。家出先はわかっているが…連れ戻せそうにない」
魔術師団長の令息の婚約者は家出して、自分の運営する会社の利益で十分過ぎるほど贅沢な生活を送ってついでに家族にも仕送りするらしい。
だから親御さんもむしろ養われてるくらいなので連れ戻せないとか。
この人も中々に有能だったからな…知識チートもあるし。
みんな本当にすごいな、羨ましい。
で、一番知識チートがあるメンツの中で低脳…頭お花畑のヒロインである巫女姫様より能力が低い私は。
「君はどうしたい…?」
「私は断れませんね…貴方が我が侯爵家に婿入りしてくれない限り、親戚から跡取りを迎えなければいけませんし………それを両親は望みませんし」
私は両親から溺愛されていて、両親は私を手放したくないご様子。
かと言って今更婿探しも難しい。
まあ最初のプランでは私は婚約破棄されて修道院行きのつもりだったが…この人がそれを望まないというなら私の両親も認めないだろう。
それを伝えたら彼はパッと顔色を良くして嬉しそうに笑った。
「ほ、本当か!?」
逆ハーメンバーの中で唯一『婚約者の実家頼り』の彼にとって、それは朗報だろう。
辺境伯家の次男の彼は、長男が家を継ぐので私と政略結婚を決定されていた。
『我が家』を継ぐための勉強だけをしてきた彼では、他の生き方など今更身につかないだろう。
まあ一応、ヒロインである巫女姫様が彼のルートを選んだ場合平民としてそれなりに裕福に普通に暮らすので市井で生きる力もあるはずなのだけど。
それにしても逆ハールートの結末がこれかぁ…各悪役令嬢がどうなるかとかそこのところはあんまり描写されず、頭お花畑のハッピーエンドだったからなぁ。
現実は世知辛い。
「愛のない結婚になりますが、よろしいので?」
「そんなものお互い様だろう」
「そうですね」
ということで、世間の醜聞など気にしない“体”で私はこの人と予定通り結婚することになった。
結婚してから、彼はヒロインである巫女姫様にメロメロなこと以外は普通の夫になった。
私の代わりに侯爵家の仕事を真面目に的確にこなすし、跡取りが生まれたら中継ぎで侯爵になるだろうが跡取りが立派に成長したらすぐに爵位を継承させることにも了承している。
私を抱く腕は優しいし、たまに教会に行っての巫女姫様とのイチャイチャなど屋敷にいる私には見えないし…おまけに処女性が大事なら巫女姫様を抱いているということもない。
案外と穏やかな関係になってしまって、こっちが拍子抜けな気分だ。
「チェルシー」
「なんですか、フェリシアン様」
「いえ、その…君は俺といて幸せを感じることはあるか?」
「は?」
「いやその、すまない…」
なんだか責めてるわけじゃないのに、気まずそうにされると居心地が悪い。
「…まあ、幸せというか………うーん、思ったよりは悪くないですよ」
「そ、そうか」
「貴方は?」
「俺は…うん、充実した日々だ。仕事も楽しいし、君との生活も楽しいし」
「へぇ…」
今でも教会へ行って巫女姫様とよろしくやってるってことは恋愛感情はあっちにあるだろうけど…“家族”としての情はこっちにあるってことか。
まあ、別に、悪い気はしない。
かといって良い気もしないというか、そこまでこの人に関心がないが。
まあ、思ったよりは…思ったよりは、この生活も悪くはないのだ。
何より私を溺愛する両親に守られているのが大きいだろうけど。
「………言っておきますが、巫女姫様以外との不倫は認めませんからね?」
「それはもちろんだ」
「ふーん…」
まあ別に、推しでもないし。
どうでもいいけど。
巫女姫様がちょっとだけ、羨ましい気がした。
やがて私は子供を妊娠した。
正真正銘、私とフェリシアン様の子。
魔術でも血縁は証明された。
そして、それからフェリシアン様は変わった。
教会に滅多に行かなくなったのだ。
「…あの、私のことは心配ないので教会に行ってもいいですよ」
「何を言う!妻が身重なのに他の女のところへ行けるか!」
「いやでも貴方彼女が好きなんでしょう」
「それはそうだが!」
そこはそんなことないと言えよ!と心の中でツッコミを入れていると、思いがけないことを言われた。
「それでも、俺の妻は君で、この子は俺の子だ。守る責務がある。責務があるし…俺自身が、君たちを守りたい」
「…ふぅん」
まあ、悪い気はしない。
悪い気は。
うん。
それからフェリシアン様は、私がつわりに苦しんでいれば背中をさすってくれるようになった。
私が食べ物を受け付けなくなると、食べられるものはないか色々試してくれた。
「…こうしてれば、良い夫なんですけどね」
「………すまない」
「なんか、こう。貴方せめてもうちょっと器用に生きられないんですか」
「……………すまない」
馬鹿な人だなぁ、と思う。
まあ、別に、悪くはないけど。
そして出産当日。
お医者様がそろそろかなぁと言っていたそろそろが急に来た。
異常な痛みに悶えつつも、我が子を産むためとなれば気合いも十分。
そこに、執務を放り出してフェリシアン様が現れた。
そして私の手を握る。
「痛い痛い!!!うぅぅっ!ひっひっふー…ひっひっふー…!」
「頑張れチェルシー、俺がついてる!」
「うぅー、浮気野郎が偉そうに…!」
「それはそうだが!」
そこは否定しろよ!とツッコむまもなく死にそうな痛みが私を襲う。
「うぅ…!くうっ!」
「いいぞ、頑張れ。なんなら俺に噛みついてもいいから!」
「さすがにそこまで求めてない!!!」
「いや、本当に、遠慮なく」
「遠慮します!」
そんなことを言ってる間に、なんとか出産。
長く辛い戦いだったが、フェリシアン様が夫婦漫才してくれたので気は紛れていた気はする。
ちょっとくらいなら感謝してやっても良いかな、うん。
「可愛い男の子だぞ、チェルシー」
「そうですね、目は私にそっくりですが口元はフェリシアン様そっくりです」
「よく頑張った。あとは任せろ」
「はい…」
よかった、無事産まれてくれて。
おぎゃー、おぎゃーという幼いながら力強い泣声に安心しながら、私は意識を手放した。
子供が生まれてから、フェリシアン様はさらに変わった。
教会に全く行かなくなった。
「あの、教会には行かないんですか?」
「そんな時間があったら子供の成長を記録していた方が楽しい」
「それはまあ同意なんですけど…あの、巫女姫様はいいんですか?」
「親が他の女性の元へ行くなど、子供に悪影響だろう」
「それもすごく同意なんですけど…貴方、変わりましたね……」
ちょっとジト目になるのはご愛嬌。
彼はそんな私の目に焦ったように言う。
「いや、その、過去のあれは…本当にすまなかった。人生を懸けて償っていくつもりだ」
「へえ、そんなに息子は可愛いですか」
「もちろんだ!」
即答か。
うん、悪くない。
「そ、それと…」
「はい?」
「君も…可愛い」
「は?」
「いや、本当に!今は本気でそう思ってる!君を見るたび可愛いと思ってる!過去の俺は、多分、目が腐っていたんだ!今なら君の魅力がわかる!」
ふぅん…まあ、別に、悪くはないけど。
「ならその魅力って?」
「見た目も可愛い。スタイルもいい。ちょっと口が悪くなる時もあるが、それも甘えてくれているようで可愛い。あと笑うともっと可愛い。あと息子を見つめている時の君は最高に愛おしい。息子への愛が伝わるようでついつい見入ってしまう。あと」
「もう結構です、ありがとうございます」
そう言って俯いて、赤くなった顔を隠す。
もう、なんなのこの人!
結婚当初は、将来子供が生まれて大きくなったら立派に育った子供に爵位を譲った後孤立して一人寂しく生きていけばいいのにとか思ってたのに!
なんで今更こんなに甘くなるのよ!
巫女姫様が登場する前とか、その後からでも巫女姫様に靡かずこうだったら素直に大好きとか愛してるとか言えるのに!
「…旦那様」
「ん、そんな呼び方珍しいな。どうしたチェルシー」
「フェリシアン様ではなく旦那様とこれからは呼んで差し上げます。だから一つだけお約束ください」
「……どうした」
「もう、二度と不倫しないでください」
旦那様は一瞬目を丸くしたが、真剣な顔で頷いた。
「わかった。その…実は随分前に、教会で巫女姫様にさようならを告げていたんだ。彼女は残念そうにしたが祝福してくれた」
「そうでしたか…」
今度は私が目を丸くする番だった。
あの巫女姫様がそんなさようならを祝福するとは…それに、前々から巫女姫様と縁を切っていたのにも驚きだ。
「もう二度と、君以外と恋仲にはならない。体の関係も君を最初で最後にする」
「ぜひそうしてください、私もそうします」
「その…もう一度、夫婦として、やり直させてくれないか」
「そのつもりでこんな話をしています」
「そうだろうな、ありがとう」
嬉しそうに可愛く笑うその人に、あーあと思う。
心を許すつもりはなかったのに、結局絆されてしまうなんて…大失敗だ。
でも、今更ながら“好き”になってしまったのだから仕方がない。
「旦那様」
「うん」
「愛してます、大好きです」
「俺も大好きだ。愛してる」
「…もう、裏切っちゃ嫌ですからね」
私の方から口付ける。
まあ、幼い頃から“推し”じゃないからって婚約破棄とか解消とか提案していたのは私の方で。
むしろ媚を売ることもなく冷めた目で彼を見ていた私と巫女姫様なら、巫女姫様に軍配が上がるのも仕方がないことで。
この人だけのせいにしていた私の方が狡かったわけで。
だから、ここからお互いきちんと“愛し合う”ことを始めていけたら良い。
「…ありがとう、チェルシー」
「旦那様こそ、ありがとうございます」
「君にそう呼ばれると、なんだかこう…幸せだな」
「ふふ、そうですか」
「…だが」
ちょっと困った顔をする旦那様に首を傾げる。
「どうしました?」
「いや、その。この子が将来大きくなった時に馴れ初めとか聞かれたらどうしようかと思ってな」
「そんなもの全部正直に話しますよ」
「え」
「反面教師になるのも、大事なお仕事、ですよ?」
にこっと笑って言えば、彼は諦めたように手を挙げて降参のポーズ。
でも、この子が大きくなったら絶対この人を反面教師にはさせよう、そして私もこの結婚の話で反面教師になろうと決意した。




