お姉さんが守ってあげるからね
――翌日、メルはガタゴトと機関車が規則正しいリズムで揺れる音で目を覚ます。
「……んぁ、そ、そうか、魔導機関車に乗ってたんだっけ」
横になると揺れや音が結構気になるな、と思いながらメルが体を起こすと腰に重さを感じて我に返る。
「そうだ、ノインちゃんは?」
「あっ、おはようございます」
メルが声を上げると、部屋の中央の方からぴょこん、と小さな影が姿を見せる。
「食堂車から朝食を貰ってきましたけどメルさんはお肉と卵、どちらがいいですか?」
「えっ? あっ、じゃあ卵を……」
「わかりました。卵ですね」
いくつかメニューを貰ってきたのか、ノインはてきぱきとテーブルに料理を並べていく。
「…………あれ?」
元気に動き回るノインを見て、メルはおかしなことに気付く。
昨晩、メルは悪夢にうなされるノインを慰め、そのまま彼女の体を抱いて寝たはずだ。
そうなると今、メルの体に感じる重みは一体何だろうか?
答えの予想は何となくつくが、メルはゆっくりと視線を落としていくと、
「うぅ……メル……まだ起きないで」
彼女の腰に抱きついていた大きな影が情けない声を上げる。
「やっぱり朝は寒くて動けない……メルの体で温めて」
「ルー姉……」
メルは「はぁ」と盛大に溜息を吐くと、手を伸ばしてルーの体を正面から抱く。
「ほら、ノインちゃんも見てるからしゃんとして」
「はふぅ……メルの体、ぽっかぽか」
メルがいくらルーの背中を叩いて奮起を促しても、体が石のように固く冷え切っている姉は、一向に動いてくれそうにない。
「メ、メルさん!?」
ルーの眠そうな声を聞いてやって来たノインが、抱き合う二人を見て目を白黒させる。
「そ、その……私、出ていった方がよろしいですが?」
「大丈夫、これ……いつものことなの」
今にも部屋から出ていきそうなノインを制したメルは、蕩けているルーを指差しながらこの状況を説明する。
「ほら、ルー姉ってドラゴンでしょ? だから寝起きに自分で体温を上げることができないのよ」
「それって、トカゲと同じ……」
「そう、変温動物ってやつね。いつもなら温かくなる抱き枕で寝るんだけど、昨日はボクたちと同じベッドで寝たから……」
「体が冷えてしまったんですね」
合点がいったように頷くノインに、メルは苦笑しながら頷く。
こうなることがわかっているのに一緒に寝たいと申し出てくるのだから、メルとしては呆れるしかなかった。
「ノインちゃん、悪いけどルー姉が動けるようになるまでもう少しかかるから、ルー姉の分のご飯もお願いしてもいいかな?」
「……あっ、私はお肉で~」
緩慢な動きで手を上げて主張するルーに、ノインは思わず「クスッ」と笑みを零す。
「わかりました。メルさんほどではありませんが、愛情込めて作りますから」
笑顔で力こぶを作って見せたノインは、肉を所望だというルーのメニューを考えながら朝食作りへと戻っていく。
その途中、
「……あの、メルさん」
ノインは足を止めると、後ろを振り返ってメルに向かって頭を下げる。
「昨晩はありがとうございました」
「ん?」
「嫌な夢を見て辛くて……とても悲しかったけど、途中からメルさんの声が聞こえて……その、朝起きたら……」
「ああ、あれね」
全てを聞かなくてもノインが言いたいことを察したメルは、恥ずかしそうにモジモジしている少女へ笑いかける。
「心配しなくても、これからもお姉さんが守ってあげるからね」
「は、はい、よろしくお願いします。」
満面の笑みを浮かべて深くお辞儀をしたノインは、ご機嫌な鼻歌を歌いながら朝食のメインを作っていった。
食堂から貰ってきたパンとサラダ、そしてノイン特製のスクランブルエッグ、こんがりと焼かれた腸詰めを堪能したメルたちは、食後の一杯で一息ついていた。
すると、
「お客様」
部屋の入口が控え目にノックされ、静かな声が聞こえる。
「お休みのところ申し訳ございません。少しお時間をいただけますでしょうか?」
「あっ、は~い」
声の様子から、この部屋の世話をしてくれる女性の乗務員だと気付いたメルは、入口まで駆けていって扉を開ける。
「どうしました?」
「はい、まずはお客様にご迷惑をおかけすることをお詫びさせて下さい」
「……えっ」
深々と頭を下げて謝罪した乗務員は、魔導機関車に起きている問題について話していった。