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悪夢なんて怖くない

 その後、メルたちは食堂車で肉多めの夕飯を堪能し、途中の駅で一等客車の窓が外から透けて見えないことを確認したノインと一緒に風呂に入り、夜も更けてきたので寝ることにした。


「ふっふっふ、ノインちゃんにこの姿を見せる時が来たね」


 不敵な笑い声を上げながら、最後に風呂に入ったメルが寝間着姿で現れる。


「じゃ~ん!」


 両手の指を少しだけ曲げて飛び出したメルの格好は、トラ柄の猫を模した着ぐるみパジャマだった。


「ノインちゃん、見てみて~」

「わぁ、可愛いです!」


 薄手のキャミソールに着替えたノインは、現れたメルを見て目をキラキラと輝かせる。


「そのお洋服、猫ちゃんですか?」

「そうだにゃん、ちゃんと尻尾も付いてるにゃん」


 そう言って振り返ったメルのお尻には、縞模様の長い尻尾がゆらゆらと揺れている。


 まるで本物のようにゆらゆらと尻尾を揺らしながら、メルはパタパタと歩いてベッドの上に登る。


「おおっ、ふかふかだ。ノインちゃんも早くおいでよ」

「えっ、で、ですが……」

「ダメダメ、お客様はベッド以外で寝させられないよ。もし、ノインちゃんがソファで寝るって言うなら、ボクもソファで寝るよ」

「もう……わかりましたよ」


 強引なメルの勧誘に、彼女のことが少しわかってきたノインは、諦めたように嘆息してベッドの上に登る。


「わぁ……凄い、ふかふかです」

「でしょ? 大の大人が二人寝ても平気なベッドだから、一緒に寝てもまだまだ余裕だよ」

「ですね。何ならルーさんも一緒でも平気かも」

「それはいいことを聞いた」


 ノインの呟きに、長い髪の毛を乾かしていた緑のパジャマを着たルーが二人の乗るベッドに上がる。


「うん、これなら三人並んでもバッチリ寝れるね」

「ええっ、流石にちょっと狭くない?」

「そんなことない、皆でくっつけば何も問題ない」


 もう三人で寝ることは決定事項なのか、ルーはそそくさと一人先にベッドの端に陣取ると、


「それじゃあ、おやすみ」


 一方的に挨拶をしてベッドに潜ると、すやすやと寝息を立てはじめる。


「…………」

「…………」


 その眠りまでの余りの早業に、二人の少女は唖然と見ていたが、


「……ボクたちも寝ようか?」

「そう……ですね」


 ルーが先に寝たからといっても、もう一つのシングルベッドに二人で寝るのも違うと思ったメルたちは、少し手狭になってしまったベッドに入っていった。




 ――その日の夜、ガタゴトとリズムカルな音を響かせる一等客車に苦しそうな気なうめき声が響き渡る。


「うぅ……パパ……」


 声の主は、メルの隣で寝ていたノインだった。


「やめて……パパを…………フェーちゃんを…………いじめないで」


 苦しそうにもがくノインの顔には脂汗が浮かび、いやいやと激しくかぶりを振りながら目から涙を零す。


 ノインは今、昼間の強盗に人質として捕らえられ、目の前で大好きなパパとフェーが成す術なくバラバラにされるという悪夢の中にいた。


「お願い……何でもしますから……どうか……どうか…………」


 昼間はメルたちによって華麗に助けられたはずなのに、悪夢には彼女たちは出てこない。


「誰か……誰か……」


 悪夢から覚めないノインは、涙を流しながら虚空へと手を伸ばす。



 すると、


「大丈夫、ボクがいるよ」


 寂し気に伸ばされた手を、密かに起きていたメルが受け止めると、そのまま彼女の頭を抱き寄せる。


「怖かったよね、辛かったよね。でも、大丈夫。もう安心だから……」


 優しく頭を撫でながら、メルはノインを安心させるような言葉を投げかけ続ける。


「ノインちゃん、大丈夫だよ。ボクが……ボクたちがいるからね」


 メルが耳元で囁くように話しかけ続けると、徐々にではあるがノインの体から強張りが消えていく。



 それからも暫くの間、メルは定期的にノインの耳元で「大丈夫」と声をかけながら安心させるように背中を擦り続ける。


「……やっぱり」


 ノインをあやしているメルの背に、声を聞いて起きたのか、ルーが小さな声で話しかけてくる。


「メルの危惧してた通りになったね」

「うん、しょうがないよ。あれだけ怖い目に遭ったんだもん」


 ノインの背中優しくを撫でながら、メルはやはり彼女に声をかけてよかったと思う。


 強盗たちを捕まえた後、メルがノインに声をかけた真意は、今回の件で心に傷を負ったであろうノインをフォローすることであった。


 入院することになった父親と共に、病院に行くことになれば問題なかった。

 父親の入院先で症状がわかれば、大人たちの手厚い看護によってノインの精神は守られたであろう。


 だが、ノインは一人で聖王都を目指すことになった。


 その場合、夜に悪夢を見ても誰も助けてくれず、一人で苦しみ続けることになる。


 さらに三等客車の寝室は人一人がようやく寝られる程度のスペースしかなく、すぐ近くに別の乗客がいるので、夜中に声を上げて泣いていたら見知らぬ者に怒鳴られてまた新たなトラウマを抱える要因になり兼ねない。


 だからこそメルは、ノインの苦しみを少しでも癒せればと声をかけて部屋へと招いたのであった。



「怖い目に遭った夜の怖さは、よく知っているからね」

「そういえばメルも修行の最初の頃は、事あるごとに泣いては私のベッドに潜り込んで来たよね」

「……うん、本当にボクにはルー姉がいてくれて良かったよ」


 かつての自分を思い出して気恥ずかしさを隠すように、メルはノインの背中を撫で続ける。

 すると悪夢はようやく去ったのか、ノインはメルの腰に抱きつくように手を回して静かな寝息を立てていた。


「……もう、大丈夫かな?」

「だと思う。ところでメル、そのまま寝るのが辛かったら代わるよ?」

「ううん、大丈夫」


 ルーからの提案を、メルは静かにかぶりを振って遠慮する。


「ルー姉がボクにしてくれたことを体験できる貴重な時間だから……このまま最後までノインちゃんの面倒をみさせて」

「……わかった」


 ルーは「フッ」と笑みを零すと、少し頼もしくなった妹分の背中を見ながら眠りについていった。

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