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秘密より約束を

「わあぁぁ……」


 こんもりと盛られた黄色と赤のコントラストが美しいオムライスを前に、ノインの頬が喜色で赤く染まる。


「これ、本当に食べていいんですか?」

「どうぞどうぞ、遠慮なく食べて」


 メルからスプーンを受け取ったノインは、意気揚々とスプーンをオムライスに潜らせ、大きな口を開けて一気に頬張る。


「――っ!?」


 オムライスを一口食べたノインは、大きく目を見開いて驚いた表情を浮かべた後、双眸を細めて幸せそうな表情で何度も頷く。


 まずはケチャップのしっかりとした塩気に続き、ふわふわ、とろとろの卵がケチャップの塩気を優しく中和してくれる。

 続けて間髪入れずやって来たチキンライスの酸味と、ほんのりと甘みのある優しい味が卵と合わさり、一つの旨味のハーモニーとなって口の中で豊かな味を奏でる。


「う~ん……」


 唸り声を上げてオムライスを咀嚼したノインは、ゆっくりと顎を上下させて飲み込みと、満面の笑みでメルに笑いかける。


「すっごくおいしいです。こんな豊かな味のオムライス、初めて食べました」

「そう?」

「はい、甘いし、酸っぱいだけじゃなく色んな味がするのに、どれも喧嘩していなくて、それでいて旨味がまろやかなんですよね」

「そのまろやかさを引き出してるのは、この隠し味に入れている味噌なんだよ」

「はぁ、あのちょっと入れた調味料にそんな効果が……」


 プラスチックの容器に入った味噌を眺めながら、ノインはパクパクとオムライスを食べて行く。


 すると、


「メル、早くの私のご飯にも卵を乗っけて~」


 先にノインの分だけのオムライスを作ったので、まだ卵が乗っていないチキンライスを手にしたルーが訴えてくる。


「早くしないと、我慢できずに卵が乗る前のチキンライスだけ食べちゃう……じゅる」

「わ、わかったから、今すぐ作っちゃうからルー姉、ちょっとだけ待ってね」


 今にも口の端から涎た溢れそうなルーを見て、メルは大急ぎで自分とルーの分のオムレツを作っていった。



 オムライスが三人の胃袋に消えるまで、そう時間はかからなかった。


 その後は夕食まで時間を潰すことになり、お腹いっぱいになったノインは、黄色の丸い鳥のフェーの面倒を見ていた。


「フフフ、おいしい?」

「ピッ!」

「そう、よかった」


 ノインの手からパンを食べさせてもらったフェーは、嬉しそうに羽を広げて羽ばたく。


「……フフッ、フェーちゃん、ノインちゃんのことが本当に好きみたいだね」

「はい、フェーちゃんは生まれた時から私が面倒をみているので、私のことを親だと思ってくれてるみたいです」

「ああ、インプリンティングってやつね」


 インプリンティングとは、雛鳥が生まれて初めてみたものを親として記憶して追いかけるようになる刷り込み学習のことである。


「それじゃあ、ノインちゃんはフェーちゃんのママなんだ」

「はい……それも後、ちょっとですけどね」


 そう言って丸々としたフェーお腹を指で優しく撫でるノインは、寂しそうに笑う。


 その(うれ)いを帯びた瞳は、十代の少女が見せる表情としては随分と達観しているように見えた。



 そのまま暫くの間、ノインはフェーのお腹を撫で続けていたが、


「……何も聞かないんですね」


 耐え切れなくなったように、メルに尋ねる。


「どうしてメルさんは、私やフェーちゃんのことを何も聞かないのですか?」

「どうしてって……その質問はフェアじゃないから、かな?」


 料理の後片付けをしながら、メルはノインの疑問に答える。


「ボクはノインちゃんの命の恩人で、この部屋に滞在許可を出している身だから、ノインちゃんはボクに何か言われたら断り辛いでしょ?」

「それは……はい」


 正直に頷いてみせるノインを見て、メルはクスッと笑みを零す。


「でしょ? ボクとしてはノインちゃんの秘密を聞くより、ノインちゃんのパパとの約束を守る方が大事だから」

「パパとの約束……」

「うん、同じパパ好きとして仲良くしたいからなんだけど……ダメかな?」

「ダメじゃないです!」


 伺うように尋ねるメルに、ノインは激しくかぶりを振る。


「私もメルさんと仲良くしたいです。今は訳あって何も言えませんが、全てが終わったら必ず話しますから」

「うん、その時は夜通し話そうね」


 二人の少女は互いに破顔すると、それぞれの作業へと戻っていった。

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