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いいからやっちゃえ!!

 嬉しそうに笑うメルを見て少し冷静になったのか、ノインは唖然とした表情で呟く。


「ドラ……ゴン、本物?」

「そう、本物のドラゴン、驚いたでしょ」


 メルは堅苦しそうに縮こまっているルーへと近付くと、両手を広げてノインに提案をする。


「ねえ、ノインちゃん、行こうか?」

「い、行くって何処に?」

「アポルを取りにウィンディア地方に……ルー姉の翼ならあっという間だよ」

「ええっ!?」


 まさかの提案に、ノインは呆然とルーのことを見上げる。


 ノインの視線に気付いたルーは、長い首を器用に動かして彼女へと目線を合わせると、キラキラと輝くつぶらな瞳を細めて笑う。


『任せて、今から行けば夜半過ぎには着くから』

「そ、そんなに早く……」


 ルーの言葉に、ノインは驚くしかなかった。


 故郷のウィンディア地方から聖王都エーリアスまで何日も書けて来たにも拘らず、ルーの翼を使えば数時間で辿り着くと聞けば無理もない。


『私とメルの準備はできてる。後はノイン、君だけだけど、どうする?』


 その問いかけに、迷う必要はなかった。


「行きます。私とフェーちゃんを、どうかアポルが取れる山に連れてってください」

『うん、任せて』


 ルーは双眸を細めてニッコリ笑うと、顔を下げて伏せの姿勢をとる。


『さあ、メル……』

「うん、ほら、ノインちゃん、フェーちゃんもこっちに来て」


 ルーの言葉に、彼女の後ろ脚に回っていたメルがノインたちに声をかける。


「ここからルー姉の背中に上がれるよ」


 手本を見せるように、軽い足取りでルーの背中に登ってみせたメルを見て、ノインも頷いて後に続く。


「わかりました。フェーちゃん、こっち来て」

「ピッ!」


 先にルーの後ろ脚に乗ったノインが手招きをすると、フェーは緩慢な動きながらも立ち上がり、嬉しそうに彼女に寄り添う。


 成長し、既にノインより大きくなっているフェーであったが、甘えん坊なところは変わらないようだった。


「さあ、フェーちゃん。ママと一緒にルーさんの背中に乗って」

「ピッ」


 ノインの後に従って、フェーもルーの背中に乗ろうとする。


「……ピェェ」


 だが、長らく栄養を摂っていなかったからか、ルーの背中に乗るだけの力が入らないようで、フェーはがっくりと首を垂れる。


「そんな、ここまで来たのに……」

『大丈夫』


 がっくりとしたノインの声に、ルーがすぐさま反応して長い首を伸ばしてフェーへと顔を近付ける。


『食べるわけじゃないから』


 そう言ってフェーの首根っこを優しく咥えたルーは、自分の背中にオレンジ色の鳥をそっと置く。


「ピピィ!」

「うん、よかったね……本当に、よかった」


 嬉しそうに羽をパタパタさせて寄り添うフェーを、ノインは涙を零しながら愛おしそうに撫でる。


「フフッ、よかったね。ノインちゃん」


 仲睦まじい一人と一羽を見て笑みを零したメルは、ルーへと話しかける。


「それじゃあルー姉、行こうか」

『それはいいけど、この壁はどうする?』


 出発の準備は整ったが、物見の間には入り口以外には外に出る術は見当たらない。

 上を見上げると円形の壁に沿って登るための螺旋階段があり、天井から光が漏れていることから外へと続く出口があるのかもしれないが、ドラゴンとなったルーの巨体が通れるとは思えなかった。


 だからここは、


「よし、壁を壊そう」


 メルは迷うことなく結論を出す。


「今はフェーちゃんのことが最優先だから、壁を壊したことは後で謝ろう」

『いいの?』

「うん、もし働いて返せて言われたら、その時は頑張って働こう」

『わかった』


 特に異論はないようで、ルーはあっさりと頷いて大きく口を開ける。



 すると、


「キャアアアアアアアアアアアァァァッ! ど、どうしてドラゴンがここに!?」


 部屋の入口の方からヒステリックな声が聞こえ、メルたちは声の方へと目を向ける。


 意識が戻ったのか、女性の研究者が青い顔をして立っていた。


「あ、あなたたち、何をしようとしているの……まさかドラゴンの力を使って壁を壊すつもりじゃないでしょうね」

「アハハ……すみません、このままだと通れないのでちょっと穴開けさせてもらいますね」

「アハハ、じゃないでしょう。ここは物見の間、歴史的にもとても価値のある建物なのですよ」

「はい、知ってますよ」

「知ってますよって……」


 歴史的建造物だと知った上で壊そうとするメルに、女性は信じられないと青ざめる。


 だが、メルは特に気にした様子もなく、ルーの背中をポンポンと叩いて正面の壁を指差す。


「でも、フエゴ様の為の部屋が、フェーちゃんのために壊されるんなら本望ですよね」

「や、やめてえええええええええええええええええええええええぇぇぇ!」

「ルー姉、いいからやっちゃえ!」

『任せて』


 メルの声に、ルーは口内に溜めていたエネルギーを解放させ、熱線を壁に向けて放つ。


 次の瞬間、一条の赤い閃光が夜空を切り裂いたかと思うと物見の間の壁の一面が大音響と共に消し飛び、巨大な影が大空へと飛び立っていった。

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