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いざ、聖王都へ

 魔導機関車が完全に止まると、長旅の疲れを吐露するように車輪の間から大量の蒸気を吐き出す。


 最初に乗務員たちが降りて来て安全を確認すると、乗客たちが世話になった乗務員たちを労いながら降りてくる。


「う~ん、やっと着いた」


 大きく伸びをして一等客車から出たメルも他の乗客に倣い、ここまで世話してくれた一等客車専用の女性の乗務員に声をかける。


「ご苦労様でした。ここまで本当にありがとうございました」

「いえいえ、こちらこそご利用いただきありがとうございます。道中は快適に過ごせましたでしょうか?」

「うん、とっても」


 気遣うような女性乗務員の言葉に、メルは満面の笑みで頷く。

 だが、すぐさま恐縮したように眉を下げたメルは、女性乗務員に顔を寄せて彼女の耳元で囁く。


「あの……フェーちゃんの羽根の掃除、本当にしなくてよかったんですか?」

「ええ、大丈夫です」


 心配そうに尋ねるメルに、女性乗務員は問題ないと笑顔で頷く。


「この後、専門の業者が入ってクリーニングを行いますから。お客様は何一つ気にすることなく、ご自身の旅をお楽しみください」

「そうですか……わかりました」


 そこまできっぱりと言われたら逆に気にするのはよくないと思い、メルは再び笑顔を浮かべて女性乗務員にペコリと頭を下げる。


「本当に、最後までありがとうございました。またの機会がありましたら、その時はよろしくお願いします」

「はい、お待ちしております。お客様も良い旅を」


 そう言って深々と頭を下げる女性乗務員に手を振りながら、メルたちは駅舎へと向かって行った。




 聖王都エーリアスの駅舎は、この世界で最初に完成した由緒ある建物で、これまで見たどの駅舎よりも豪華な造りをしていた。


 広く、見通しのよいホールを覆うのはガラス張りの天井で、燦燦と降り注ぐ陽の光が床にタイルで描かれた艶やかな花を照らしている。

 花の中心には噴水があり、創世神と呼ばれる女神を模した石像の肩に担いだ巨大なかめから流れでた水が、いくつもの滝となって周囲に涼を振りまき、近くで子供が手を伸ばしていた。


 鉄道そのものはまだ単線で、乗車チケット高額なので利用客は少ないのだが、駅舎そのものには無料に入れるからか、中には多くの人で溢れかえっていた。


「おおっ……」


 改札を抜けてホールへと入って来たメルは、周囲をキョロキョロ見渡しながら興奮したように目を輝かせる。


「凄い凄いとは聞いていたけど、こんな豪華で立派な駅舎だとは思わなかったよ」

「綺麗ですよね」


 自分の腰くらいの大きさに成長したフェーを脇に従えながら、改札から出てきたノインがメルに説明する。


「ここは大陸の鉄道の拠点となる駅ですから、どの駅よりも立派じゃなきゃいけないと、お城を造った特別な大工さんたちが造ったらしいです」

「へぇ、お城を……」


 よく見れば案内係がいるカウンター、休憩するためのベンチ一つとっても精緻な彫刻が施されていたり、時刻を表示する時計も魔法によって描かれたホログラムのような表示になっていたりと、これまで通っていた駅舎とは明らかにレベルが違っていた。


「全然詳しくはないんだけど、そう言われて見ると、どれも高そうに見えてくるね」

「ウフフ、そうですね」


 同じ感想を抱いた二人は、互いに顔を見合わせて破顔する。


「それで、これからノインちゃんはどうするの?」

「あっ、私はですね……」

「着いたのか」


 ノインがこれからの予定を言おうとすると、それより早く彼女に話しかけてくる者が現れる。


 コツコツと硬質な足音を立てて現れたのは、頭髪を後ろに撫でつけた神経質そうな顔をした漆黒のスーツ姿の中年の男性だった。


 見るからに仕立てのいいスーツ姿の中年男性は、苛立ちを露わにするようにかけている眼鏡を押し上げると、ノインのことを射貫くように睨む。


「遅くなるとは聞いていたが、それならもっと急いで出て来てもいいのではないか?」

「あっ……ハイネおじさま」


 声の主に気付いたノインの表情が、緊張したものへと変わる。


「ご、ごめんなさい。その……ラクス村以降の駅は長く停車しなかったので、手紙を出す暇がなくて……」

「言い訳はいい……ところでそれが今回のフエゴ様か?」

「あっ、はい、フェーちゃんと言います」

「名前などどうでもいい……フン、今回の随分と醜いな」


 ハイネと呼ばれた男性は不機嫌そうに鼻を鳴らすと、ノインたちに向かって顎で出口を指し示す。


「人が集まる前に屋敷に入っておきたい。急ぐぞ」

「あっ、はい!」


 とっとと背を向けて歩き出すハイネを見て、ノインもフェー促しながら歩き出す。


 その途中で、


「そ、その、メルさん、ルーさん」


 思い出したかの様に立ち止まったノインは、メルたちに向き直ってペコリと頭下げる。


「急な話で申し訳ありませんが、私たちは……」

「大丈夫、ボクたちのことは気にしなくていいから……それよりおじさんを待たせちゃ悪いよ」

「あっ、はい、今回のお礼はいつか必ずしますから」


 ノインは再びペコリと頭を下げると、フェーを連れて駆け足で駅舎から出ていった。



 ノインたちの姿が見えなくなるまで手を振って見送ったメルは、隣で佇むルーに静かに話しかける。


「……行っちゃったね」

「だね。それにしても最後の奴……何か嫌な感じだった」

「今日はたまたま虫の居所が悪かっただけだよ…………きっと」


 ノインの親族かもしれない人物をあまり悪く言うのはよくないと釘を刺すメルであったが、その気持ちはルーと同じだった。


 上等な身なりをしたハイネは、エーリアス内ではそれなりの地位に就いていると思われるが、フエゴ様と呼んだフェーを見る目は、決して好意的なものではなかった。


「……ノインちゃん、大丈夫かな?」

「そんなに心配なら明日にでも様子を見に行けばいい」


 思わず漏れたメルの心配そうな声に、ルーが手を伸ばして彼女を抱き寄せながら耳元で話す。


「行先は屋敷と言っていた。場所はわかっているのだから、巡礼の帰りにでも寄ろう」

「うん、そうだね」


 ノインのことも心配であるが、自分も果たさなければならないことを思い出したメルは、気合を入れるために自分の頬を叩く。


「ルー姉、巡礼は教会に行けばいいんだよね?」

「そう、でも司祭への面会は予約を取らないといけないから、一度、顔を出しておくといい」

「そうなんだ。じゃあ、この後は教会へ行って、司祭様へのアポを取ろう」

「ついでに、道中で買い食いをしたい」

「ハハハ、それ賛成」


 ブレないルーの意見にメルは思わず笑みを零しながら、姉と肩を並べて聖王都エーリアスの街中へと繰り出していった。

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