なんか大きいんだけど……
二日かけてしっかりと整備した魔導機関車の調子は良好で、これまでの遅れを取り戻すように聖王都目掛けて軽快に進む。
途中、いくつかの停車駅で乗客や積み荷の上げ下ろしを行い、聖王都エーリアスまではもう数日というところまで来ていた。
「ん……朝……か」
窓から差し込む僅かな光で目を覚ましたメルは、身を起こしてガタゴトと枕木を踏む小気味のいい音を耳にしながら体を解すように大きく身を伸ばす。
「ふああぁ、よく寝た」
寝台列車は音や揺れが気になると聞いていたメルは、最初こそ揺れや騒音が気になって眠りがやや浅かったが、三日も経てば体も慣れるもので、ここ最近の睡眠は快適そのものだった。
「皆は……まだ寝てるか」
隣で眠るノインも、もう一つのベッドで眠るルーも抱き枕をしっかりと抱いてぐっすり眠っている。
二人を起こさないように気を付けながら、メルは静かにベッドを抜け出す。
夜が明けたのなら、厨房に目覚めの水でも貰いに行こうと思ったのだ。
すると、
「ピッ!」
部屋を出て行こうとするメルの視線の隅に、元気な鳴き声を共にバサバサと羽音を響かせる黒い影が見える。
「ピピッ、ピピッ!」
「フェーちゃん、まだ皆が寝てるから静かにね」
まるで自分も連れて行けというようにアピールを繰り返すフェーに、メルは静かにしてもらおうと黄色い鳥が入っているかごへと近付く。
「フェーちゃ……」
お願いだから静かにして、と言おうとしたメルがかごの中の鳥を見て固まる。
「ピーッ! ピーッ!」
「あっ、うん……そうだね」
何を言っているのかは理解できなくとも、フェーが訴えていることを理解したメルは、かごを蓋ごと取り払って黄色い鳥を外に出してやる。
「ピピィ」
かごから出たフェーは、メルに向かって「ありがとう」と言うように嬉しそうに鳴きながら、スリスリを頬擦りする。
「あっ、うん……よかったね」
頬擦りするフェーの期待に応えるように黄色い鳥の頭を撫でながら、メルは思ったことを口にする。
「ねえ、フェーちゃん……君、昨日よりなんか大きくなってない?」
そう言ってメルが抱き上げるフェーの体格は、彼女が最後に見たサイズより明らかに一回り大きくなり、入っていた鳥かごに収まりきらないほどだった。
メルが初めてフェーを見た時は、両手で抱えられるぐらいの鳥としてはかなり大きな体格をしていた。
鳥類の中ではただでさえ大きなフェーが、一晩の間に両手で持ち上げなければいけないほどの大きさに……体感で初めて見た時の倍ぐらいの大きさになっていた。
そんな突然変異を遂げたフェーを心配したメルは、黄色い鳥のことを知っている様子の頼りになる姉に助けを求めた。
自分の身体を差し出すことで、深い眠りからどうにか起きてもらったルーに、フェーの状態を診てもらったところ、
「これは……成長期だね」
帰って来た答えは、思ったより簡素なものだった。
「えっ、成長期?」
「うん、フェーは今、幼体から成体に生まれ変わる途中だからね。これからどんどん大きくなるよ」
「で、でも……一日でこんなに大きくなるの?」
「なるんじゃない? メルも成長期には、一日で五センチくらい伸びてたでしょ?」
「そうだけど……でも、夜には縮んじゃったし、関節とか痛くて大変だったんだからね」
心配そうにフェーの頭を撫でるメルであったが、対するルーは興味なさそうに欠伸を噛み殺していた。
「もう……」
まだ眠り足りない姉では頼りないと思ったメルは、自分の経験から急激な成長は体への負担が辛いんじゃないかと思い、フェーに向かって試しに聞いてみる。
「フェーちゃん、体のどこか痛かったり、苦しかったりする?」
「……ピッ?」
だが、メルの言葉をフェーが理解できるはずもなく、黄色い鳥は可愛らしく小首を傾げるだけだった。
「だよね……」
もうこうなったら頼みの綱は、フェーの親代わりであるノインしかない。
そう思いながら、メルは楽しそうに室内をちょこまか歩くフェーのことを心配そうに眺め続けた。




