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また会いましょうね

 ――翌日、簡素なラクス村の駅に二日ぶりに稼働する魔導機関車の動力装置のシュッ、シュッ、という軽快な音が響き渡っていた。


「間もなく聖王都へ向けて出発致します。乗客の皆様は、お忘れ物なきようご乗車ください!」


 若い機関士の威勢のいい声に、魔導機関車の乗客たちが次々とそれぞれの客車へと乗り込んでいく。

 ホームには見送りに来た人たちも何人かおり、その中にはジャッド親子とラーナの姿もあった。


「お別れだな」

「嬢ちゃんたちには、すっかり世話になっちまったな」

「いえいえ、こちらこそお土産までいただいちゃってすみません」


 そう言ってニッコリ笑うメルの手には、フクフクが入っている壺漬けがあった。


「これで聖王都に辿り着くまでに、おいしいフクフクの新レシピを……辛いのが苦手な人でもおいしく食べられる料理を開発しますよ」

「ハハハ、メルらしいな」


 無理だと言われたことに果敢に挑戦するメルの姿に、ジャッドは思わず笑みを零す。


「俺もメルに負けないように、フクフクの商品化目指して頑張るよ……後、壺漬けの方もきっちり作れるようになるよ」

「はい、期待してますよ」


 互いの目標を確認したメルとジャッド親子が固い握手を交わすと、今度はラーナがやって来る。


「メルが教えてくれた魔法、何としてもものにしてみせるからね」

「大丈夫ですよ。ラーナさん、筋がいいから簡単に覚えられますよ」

「簡単に言ってくれるけど、魔法ってほいほい覚えられるものじゃないからね」


 メルと違って魔法に関しては凡人のラーナは、呆れたように笑うしかなかった。


「でも、あのフクフクの味を知っちゃったら頑張るしかないよね」

「そうですよ。ラクス村の未来はラーナさんの双肩にかかっていますからね」

「…………ちょっと、そこで変なプレッシャーかけないでよ」


 ラーナは大きく嘆息してみせるが、その表情には悲壮感はない。


 口では自信なさそうなことを言っているが、ラーナの実力を正確に把握しているメルは、彼女なら必ずやってくれると信じていた。

 何よりラーナもまた、メルと同じくおいしい食べ物のためなら困難に立ち向かうことができる人だからだ。


 だからメルは、期待を籠めてラーナに向かって手を差し出す。


「ラーナさん、今度会う時はフクフクでおいしいお鍋料理作りたいんで、魔法の習得ぜひ頑張って下さいね」

「わかったわよ。そんなこと聞いたら頑張るしかないじゃない」


 苦笑したラーナがメルの手を握り返すと同時に、魔導機関車からピーッ、という甲高い汽笛が鳴り響く。



「……時間ですね」


 汽笛の意味することを理解したメルは、ラーナと軽く抱擁して見送りに来てくれた人たち向き直って笑いかける。


「それじゃあ、ボクたち行きますね」

「ああ、メルが来てくれたお蔭で新しい扉が開けてもらったよ」

「お嬢ちゃんの諦めない心、学ばせてもらったよ」

「一応、最後はシスターらしく、メルたちの旅の無事を祈らせてもらうわね」


 それぞれと別れの挨拶をした後、メルが一等客車に乗り込むと魔導機関車がゆっくりと動き出す。


「皆さん、楽しい時間をありがとうございました」


 一等客車のデッキからメルたちが顔を出して手を振ると、流石に走り出しはしないものの、ジャッドたちも手を振り返してくれる。


 それを見て、メルたちもまた全力で手を振り返す。


「絶対に……絶対にまた来ますから、皆でおいしいごはん、食べましょうね~!!」


 実にメルらしい挨拶を大声で伝えると、ラクス村の面々は揃って相好を崩した。

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