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颯爽と現る巡礼の魔法使いと魔女の騎士

 魔導機関車に乗り込んで来たのは、十数名に及ぶ強盗集団だった。


「オラオラ、死にたくなかったらおとなしくしな!」


 列車の最後尾の貨物車に取り付き、三等客室に侵入した強盗たちは、刃渡りの長い得物をちらつかせながら大声で乗客たちに脅しをかける。


「死にたくなければ、金目の物を全て出せ」

「もし、抵抗するようなことがあれば、そいつとそいつの家族諸共殺してやるからな」

「大声を上げたり、泣き喚いたりする奴がいたらそいつも殺すから黙っていろよ」


 三等客車は、細長い通路の左右に四人掛けのボックスシートが並ぶ配置となっており、強盗たちは一つ一つのボックスに刃物をちらつかせて声をかけていく。


 一番格下の三等客車とはいえ一般庶民より遥かに裕福で、上等な衣装に身を包んだ乗客たちは、突如として現れた粗暴な連中にすっかり怯え、おとなしく金目の物を強盗たちに差し出していく。


「ヒュゥ、こいつは凄ぇや」


 被っていたテンガロンハットに金目の物を大量に入れた強盗の一人が、入り口で周囲に目を光らせているリーダー格と思われる眼帯の男に嬉々として話しかける。


「お頭、見て下さい。聞いてた通り、どいつもこいつも金持ちばかりみたいだぜ」

「ああ、そうだな……」


 差し出されたテンガロンハットを前に、眼帯の男は真剣な表情で押収したものを品定めしていく。


 だが、


「……全く足りないな」

「えっ?」

「全く足りん、と言ったのだ」


 普通に暮らせば数十年は遊んで暮らせる金品を前に、眼帯の男は不満そうな顔をする。


「知ってるか? ここは三等客室……つまり一番格下の連中が集まっている場所だ」

「えっ? じゃあ、二等や一等客車に行けば?」

「ああ、これとは比べものにならないほどのお宝が手に入るはずだぜ。それにな……」


 眼帯の男はニヤリと笑うと、自分が手に入れたとっておきの情報を話す。


「俺が得た情報では、この列車には特別な金が……金を生む特別なお宝があるそうだ」

「金を生むって……そんな物があれば一生遊んで暮らせるじゃないですか」

「それどころか世の全ての女にあらゆる物、何なら国だって買えるぜ」


 この列車内にとんでもないお宝が隠されていると知った男たちは、互いに黒い笑みを浮かべる。



「さて、その前に……と」


 眼帯の男はぐるりと周囲を見渡すと、ボックスシートの隅で蹲るように縮こまっている子供へと手を伸ばす。


「おい、そこのガキ、ちょっと来い!」

「キャッ!」


 可愛らしく結ばれた栗色のツインテールの髪を引っ張られた少女は、涙目になりながら懇願する。


「放して下さい。お、お金はもう……」

「ノイン!」


 泣き叫ぶ少女を見て、彼女の父親と思われる男性が眼帯の男へと飛びかかるが、


「邪魔だ!」

「ぎゃあっ!?」


 眼帯の男は手にしていた曲刀、シミターを横に振って少女の父親を斬って捨てる。


「パパッ!」

「おっと、動くんじゃねえ!」


 胸部から血を流して倒れる父親に駆け寄ろうとする少女の髪を引っ張って引き寄せた眼帯の男は、白い肌に血濡れの刃を突き付けて脅す。


「お前は今から俺たちの人質になるんだ。パパみたいになりたくなかったら……わかってるな?」

「ヒッ……」


 ぬらぬらと濡れる刃を見て少女の顔が引き攣り、ガタガタと小さく震え出す。


 少女の体から力が抜け、恐怖で支配できたと確信した眼帯の男は、彼女の胸倉を掴んで自分の胸元へと引き寄せる。


「イ、イヤッ!」

「おい!」


 恐怖の限界に達したのか、少女が悲鳴を上げながら逃げようとするのを、眼帯の男は力尽くで抑えにかかる。


「こいつ、暴れんじゃねぇ! 死にたいのか!?」

「イヤ! 助けて! パパ! パパアアアアァァァ!!」


 激しくかぶりを振りながら、少女は必死の抵抗をする。


 すると、


「ピピィ!!」


 少女の足元から丸い影が飛び出し、眼帯の男の顔にぶつかっていく。


「ピッ! ピピィッ!」

「おわっ!? な、何だコイツ!」


 バサバサと激しく羽音を響かせながら暴れる何かに、眼帯の男は困惑しながらも手を伸ばしてそれを捕まえる。


「ああん? 何だこれ……鳥か?」


 眼帯の男の目には、激しく羽根を動かして暴れる自分の顔と同じぐらいのサイズのまん丸の鳥がいた。


 ふんわり綺麗に仕上げられたオムレツのような明るい黄色をした鳥は、ボールかと見紛う見事な球体をしていた。


「ピピィ! ピピィ!」

「何だこの珍妙な鳥は……」


 短い羽根と足をバタつかせて何やら抗議の声を上げている鳥を見て、眼帯の男は訝し気に眉を顰める。


「まあ、いい……殺しちまうか」

「や、止めて! フェーちゃんをイジメないで!」


 少女は眼帯の男の腕に飛び付くと、青い顔で必死に叫ぶ。


「ひ、人質でも何でもなりますから、どうか……どうかフェーちゃんだけは……」

「うるせぇ!」


 眼帯の男は縋りつく少女を突き放すと、地に伏す彼女に冷たい目を向ける。


「俺はな、歯向かった奴には思い知らせてやらないと気が済まないんだよ……そんなに大事な鳥なら、尚更無残に殺してやるよ」

「お願いします。その子がいなくなったら、明日からどうやって生きていけば……」

「ハハッ、知らねぇよ。精々、いい声で泣き叫んでくれよ」


 嗜虐的な笑みを浮かべた眼帯の男はナイフを振り上げると、暴れ続ける丸い鳥目掛けて容赦なく凶刃を振り下ろす。


「やめてえええええええええええええええええええええええええぇぇぇ!!」


 客室内に少女の悲痛な叫び声も空しく、丸い鳥は凶刃に貫かれるかと思われた。



 ……だが、


「あぐっ!?」


 次の瞬間、眼帯の男がくぐもった悲鳴を上げたかと思うと、手にしていたナイフと丸い鳥を取り落とす。


「早く! 鳥さんを拾って!」

「あっ、はい!」


 突如として客室内に響いた刺すような鋭い女性の声に、少女は地面に落ちて動かない丸い鳥を大切そうに抱える。

 それと同時に、


「よくできた。いい子だ」

「えっ?」


 涼やかな声と共に緑色の髪をした美女が現れ、少女の首と膝の裏に手を差し入れて抱き上げる。


「飛ぶから掴まって」

「は、はい!」


 少女が掴まると同時に、美女は狭い客室の座席や通路をものともせずに大きく後ろに跳んでドア付近まで退避する。


「もう、大丈夫」

「あ、ありがとうございます」


 強盗たちの手から逃れられた少女は、胸の中の丸い鳥を大切に抱えながら自分を助けてくれた二人の女性に尋ねる。


「あ、あの、あなたたちは?」

「私はルー、魔女の騎士をやっている」


 少女の質問に、まず緑色の髪の美女が答える。


「魔女の騎士……では、あちらの方が?」

「うん、そうだよ」


 少女の質問に、銀と黒のツートンカラーの髪をした少女が頷く。


「ボクの名前はメル、大賢者になるために世界を旅している巡礼の魔法使いさ」


 最後に「よろしくね」と言ったメルは、少女に向かって可愛らしくウインクしてみせた。

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