初心者狩りの山田
駆け出した青海ひかるを、南里が慌てて追いかける。
走って近づいてみると、二人の人影をとりまくように、数人が遠巻きに見物をしていた。
「あーあー、あれは『初心者狩りの山田』だよ。」
見物人の一人が腕組みをしながら、ため息まじりに言った。
「かわいそうに、あの子、負けるに決まっている決闘を挑まれてるよ…。ああやって初心者ばかり狙って、連勝記録を伸ばすのが、『初心者狩りの山田』のやり口なんだよな。」
南里と青海が広場にたどり着くと、そこにいるのは大柄な男と、きゃしゃな女性プレイヤーの二人だった。男の方は、身長二メートルほどもあるだろうか。ふりみだした長い髪と、筋骨隆々の上半身に巻きつけた鉄の鎖が印象的だ。見るからに、イカツイ。
女性プレイヤーのほうは、こぎれいにカットされたショートボブの髪型をしている。イタリアン・マフィアがコンセプトなのだろうか、黒地に白のストライプのパンツと、白いシャツ、その上に光沢のあるグレーのチョッキが似合っている。しかし今は、男にがっしりつかまれた腕をふりほどこうと、必死だった。
「なあー、俺と勝負してえや、ねえちゃん。俺は『プレイヤー・キリング』なんかしないで、正々堂々と、決闘がしたいねん。」
「放してください! レベル差があるんだから、実際は、PKと変わらないじゃないですか!」
「それでも、連勝記録が付くデュエルのがええんや。そっちがデュエルを受けてくれるまで、手を放さへんでえー。」
初心者狩りの山田、と呼ばれたプレイヤーは、外見からいっても、かなりのレベルであることは間違いなかった。周囲をとりまく野次馬も、自分のところにとばっちりがこないよう、いつでも逃げられる準備をしながら、なりゆきを眺めている。
「南里主任、あの女の人、よく分からないけどかわいそうです。」
2人のやりとりを見ていた青海ひかるが、小声でささやいた。
「主任、ちょっと、助けてあげてください。」
「はい? ……ちょ、ちょっと待って、僕が?」
「オイッ! そこの鎖野郎ぉ―! こちらが相手になるぞ!」
言うが早いか、青海ひかるが南里を、ドンと突き飛ばした。南里はよろめきながら、巨漢のすぐそばまで近づいて、バタンと倒れ込む。倒れる際に、ズボンに手をかけてしまい、「初心者狩りの山田」のパンツがずり下がった。半ケツ状態になっている。
「な、なんやあ!」
巨漢がすっとんきょうな声をあげると、ズボンを慌てて引っ張り上げた。