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青海ひかるの提案

 昨今のゲームは、状況を有利にするためのアイテムを、次々と購入しろと促してくる。このゲーム内課金アイテムを、小額、購入するプレイヤーは「微課金」と呼ばれる。一方で、狂ったように、まるで廃人のように購入するのが「廃課金」ユーザーだ。雁野は先ほど「何万円も課金する」と言ったが、これは間違いなく重課金、もしかすると廃課金の部類に入る。


 「一回、何万円ということは、月間ではもっと使われるということでしょうか……。」


 「……だいたい、いつも十万円を超えるのです……。」


 マジかい、と南里は内心、愕然としていた。この人の年収は、内部入力データによれば4~500万円だったはずだ。控えめに見積もって年間で120万円、実に年収の四分の一程度を、ゲームにつぎ込んでいることになる。


 「……何かに熱中できるって、すばらしいと思います!」


 ひかるが目をキラキラさせて、世界中のネガティブ要素を吹き飛ばすように、力強く言った。


 「す、すばらしいですよ! その通り!」


 南里が適当に相槌を打つ。声がうわずったので、本心でないのがバレたのではないかと、ちらと雁野の表情を伺う。雁野はうつむきがちで、例のヘルメット・ヘアーのせいで表情が読みにくい。


 「ありがとうございます……。でも、本当にちょっと熱中しすぎかもしれません……。実際の私を知っている人間からは、よく『プレイ中は、しゃべり方が変わる』と言われるのです……。」


 「えー、それ、楽しそうですね。どんな風に変わるか、見たい。」


 ひかるが、明るく言葉を合わせる。


 「そうだ、雁野さんが実際にVRゲームをプレイしているところを、見させてもらうことって可能ですか? ねえ、南里主任、そうしません?」


 「あっ、はい。……え? 我々も、ヴァーチャルゲームにログインするということですか?」


 「そうすれば、雁野さんがどんな風に趣味に取り組んでいるか、深く理解できると思うんです。マッチングにも役立つと思います!」


 南里は、少し動揺した。青海ひかるの提案は、その場の思いつき感が、強すぎる。それに、たった一人の会員にそこまで時間をかけるのは、正直言って効率が悪い。


 だが、彼女がここまでやる気を出しているのだ。水をさすようなことを言うのも、よくないかもしれない。


 「雁野さんさえ、ご迷惑でなければ、そういうことも考えられると思いますが、いかがでしょうか。」


 「はい……。そこまで考えて頂けると、私としても嬉しいのです……。」


 「じゃあ、ぜひ、近いうちに私達も、ヴァーチャルゲームにお邪魔しますので! ゲームの遊び方、教えて下さいね!」


 青海ひかるが、弾んだ声でいった。雁野の方も、語調などから察するに、まんざらでもないらしい。こちらに好印象をもたせておけば、後々のトラブル回避に、有効かもしれない。


 雁野という会員は、廃課金の件もあって、やはりマッチングの難易度は高い。ただ、こちらで取り繕えば、なんとかなる可能性もありそうだ……と南里は睨んだ。万が一、上手くいった場合は、自分の手柄にすることも、検討した方がいい。


 青海ひかるの、会員をノセる技術も、初めてとは思えない程に上手い、と南里は感じた。元々のコミュニケーション能力が高いのだろう。ただ問題は、妙に、やる気を出しすぎていることだが……


 ――まあ、後学のために、最新のVRゲームを体験しておくのも悪くないかな。


 南里は、喫茶店のアイスコーヒーをストローですすりながら、そう考えた。

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