ありのままの自分
青海ひかるが、喜びに身を包み、飛び跳ねながら二人に近づく。
「あっ南里主任まで! やっぱり来てくれたんですね、信じてました!」
ふふん、と南里は得意げな表情をした。
「……少し、待たせてしまいました……。」
「あれ、覇王? ちょっと話し方、変わりました?」
「ちょっと、下で色々あったもので。なんだか、いつものしゃべり方じゃなくなってしまったのです……」
「青海さん、それで、静久さんはどこに行きました?」
南里が、あたりをきょろきょろしながら尋ねる。
「二人で一斉に逃げようって相談して、私と逆方向に走って下さいとお願いしたんです! だから、あっち! あっちの方だと思います。」
「すぐに、合流しましょう。雁野さんと静久さんが会って話すだけなのに、今夜は、ちょっと色々と激しすぎですよ。」
南里が、笑いながら言った。青海ひかるの示す方向に、走って移動する。
チラと雁野の方を見ると、表情が硬くなっているのが見てとれた。どうやら、静久さんと話す瞬間が近づいて、緊張しているようだ。
「あれあれ、雁野さん、顔がちょっとこわばってますよ?」
「はは……。いつもシズクさんとは話していたのに……。こんなことがあった後だと、どう声をかけたらいいか、分からないかもです……。」
「別に、気負う必要はないですよ。」
南里は相談員らしく、相手の緊張をほぐすように言った。
「ありのままの自分を、見せればいいだけです。変に飾っていない、ありのままの自分を。」
「南里さん! 雁野さん! あの部屋にいるのがそうじゃないかな?」
青海ひかるが、前方を指差した。そこは、光が溢れる不思議な空間だった。入り口まで足を踏み入れて、青海ひかるが思わず、立ち止まった。驚きの声が漏れる。
「うわあ……こんなところに、チャペルが……。」
南里と、雁野も同じように立ち止まった。
中には、白っぽいドレスを着た女性が一人、立っていた。
厳密にはそれは、ドレスではなかった。白いスカートをはいているだけだ。ただ、頭に何か白っぽい、レースのようなものをかぶっている。それが、まるで結婚式のときに花嫁がかぶる、ヴェールのように見えた。
雁野は、まっすぐ彼女を見つめた。十字架を背負って、桐谷静久が神々しく光り輝いていた。静久も、じっとこちらを見つめている。そこから目をそらさずに、雁野は、確かな足取りで彼女の方に歩き始めた。




