遅れてきた到着者
時間は、5分前にさかのぼる。
「今だ! 走って走って走って!」
静久が走り出すのを確認してから、青海ひかるも逆方向に走りはじめた。一瞬、静久に気を取られ、追いかけようとしたモヒカン頭に背後から一撃をくれる。もちろん、攻撃力は弱いから、視界をグラつかせる程度の効果しかない。
「貴様ぁ、なめやがって! おとなしくしろ!」
――とにかく、私が向こうの気をひかなくちゃ!
青海ひかるは、テーブルを次々とひっくり返し、追いかけてくるカノッサ機関のメンバーをたくみにかわしながら、逃げ続けた。
フロアで怒声が飛び交い、大混乱の鬼ごっこが始まる。
青海ひかるは、少しでも時間稼ぎをしようと、ジグザグに動き回る。それでも最後は、二人のモヒカンに窓際に追い詰められてしまった。
「てめえ、このアマ、調子に乗りやがって。覇王にジャマされないようにと監禁したのに、これだけ騒動になった以上、てめえを生かしておく理由もねえ。この場でPKしてやってもいいんだぜ。」
「おう、殺っちまうか? こっちも、大分ストレスがたまっているんだ。」
青海ひかるは、窓に背中をついて、話している二人の顔を見比べた。それから、思わず少し笑ってしまった。少しだけ、目が潤む。やっぱり、最後はこうなるんだ。きっと、そうなると信じていた。
「ねえ、遅いよ。」
「ああん? 何が遅いんだ、コラァ!」
「――ここに来るのが、遅いよ、覇王。」
ビクッとして、モヒカン二人が振り向いた。その視線の先に、ゆっくりとこちらに向かってくる、覇王と、南里の姿があった。
「あわわあああああー!」
「すべての包囲を突破してきたのかあ! そんなこと、あり得るのかー!」
「ぷぎゃー」
覇王の鋭い踏み込みの後、二人はフロアの彼方に吹き飛ばされていた。




