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人の恋路をジャマする奴は

 「あなたは……」


 「おい、なんやワレぇ! 誰やねん、どっからわいて出てきよった!」


 邪気眼の佐藤が、突如現れた男に向かって、怒声をあびせた。男はゆっくり雁野に近づき、手を差しのべて助け起こした。


 「雁野さん、いや、覇王。だいぶ苦戦されているようですね。」


 「み……南里さん……!」


 それは、ネットキューピッドの、南里主任だった。以前にゲームにログインしたときと同じように、スカジャンに黒のパンツという出で立ちだが、今日の南里は少し、顔つきが違っていた。どこか、迷いを振り切ったような、爽やかな決意が感じられた。


 「気が付いたんですよ。――今晩は、もう一つ、やることがあるって。」


 南里は雁野が石柱のそばの階段に座らせると、ゆっくり立ち上がって、ギンと鋭い視線を邪気眼の佐藤に飛ばした。


 「おい、そこのブタ野郎。お前に言っておくことがある。」


 「はぁん? なんやこいつ、見るからに雑魚やんけ! 俺様にケンカ売る気か!?」


 「……お前みたいな、自己承認欲求の固まりのようなガキには、分からないかもしれないが……。いいことを教えてやろう。」


 覇王は、まだ信じられない気持ちで、南里を見つめた。南里の静かな口調の中に、どこか凄みが感じられる。相談員として彼と何回も会話していたが、こんな表情は、今まで一度も見たことがなかった。ひょっとすると、これが南里の内に秘められた、もう一つの顔なのかもしれない。言うなれば、これが南里の「ヴァーチャル世界での人格」なのだ、と覇王は思った。


 「……人はいつか、自分のためじゃなくて『誰かの為』に生きるようになるんだよ。愛する女性の為、あるいは子供の為。仕事にしても……お客様の喜びの為に、生きていると感じる瞬間が来る。」


 話しながら南里は、ゆっくりと懐から何かを取り出した。何かの瓶のようだ。邪気眼の佐藤は、いぶかしげに様子を見ていたが、事態を把握するとサッと顔色が変わった。


 「ワレ……それはまさか……もしかして……」


 「先ほど、お前は誰だ、と聞いてきたな。教えてやろう――我こそは、ネットキューピッド結婚相談所のシュニン。プレミアム会員である覇王を支援するために、ここに来た。」


 「そ……その手に持っているのは……体力を全回復するレアアイテム、『帝王のブルゴーニュ』! 初級者が入手しようと思ったら、かなりの課金をしなくてはならないはず……!」


 「そんなに大したことはなかったさ。八千円ぐらいかな? まあ、ちゃんと働いている社会人にとっちゃ、飲み会一回分ぐらいだ。」


 いまや邪気眼の佐藤から、余裕の笑みはまったく消えていた。手を伸ばして叫ぶ。


 「やめろおおおおお!」


 南里は、落ち着き払って、回復アイテムを覇王に向けて使用した。たちまち、覇王の全身が光り輝き出す。みるみるうちに、光のドームが拡大し、あたりに光があふれた。その中心で、覇王は感謝の笑みを浮かべた。南里が、満足そうに覇王のステータスを確認すると、佐藤の方を振り返る。


 「……人の恋路を、ジャマする奴は……」


 南里は、スッと人差し指を邪気眼の佐藤に向けた。


 「……覇王に殴られて死んじまえ! 今だ! 行けええええ!」


 「エターナル・フォース・ブリザード!」


 バガン、と凄まじい音が夜空に鳴り響いた。

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