人生の主人公
覇王の目の前に、花火のときの浴衣姿のシズクが浮かんだ。すこしはにかんで、微笑んでいる。あの「希望」の象徴のような笑顔には、もう手が届かない。自分は、それに値する人間ではなかった。ただこのまま、敵になぶり殺しにされるだけだ。
覇王はうつむいたまま、顔をあげることができなかった。どす黒い絶望が、心の中にジワジワと広がっていった。
手のひらに、ポツリとひとつ、雫が落ちた。
「……かはっ……。う……うう……」
「ああん? どうしたんや?」
覇王はいまや、嗚咽していた。声にならなかった。自分が情けなくて、無力感でいっぱいだった。顔をくしゃくしゃにして、泣いていた。
「……僕は……いつだって、主人公にはなれなかった……。」
「オイオイ、どうしたんやおい! コイツ一人称が、突然『僕』になりよったで!」
邪気眼の佐藤が、おかしくてたまらないという風に、嘲笑した。
「僕は……学校でも、社会でも主役になれず……せめてゲームの中だけでもと思って、課金もたくさんして、ゲームのプレイ時間も大量に費やして……。」
覇王は今や、完全に「雁野栄作」の時の顔に戻っていた。廃課金で固めた奥底にある、弱い自分を隠すことができない。隠していた本音が、涙と一緒にポロポロこぼれた。
「そうやって、今度こそは……大切な人がピンチに陥った時に、黙ってみ、見ているだけの男じゃなくて……しゅ、しゅ……。」
言葉にならなかった。なんとか、声を絞り出した。
「主人公に……なりたくて……。」
「――あなたの人生の、主人公はあなたですよ。」
不意に背後で、声がした。振り向くと、涙でにじんだ視界の中に、月明かりを背負ってぼんやりと人の輪郭が見えた。




