もう一つの戦い
青海ひかるが指さした方に、黒装束のプレイヤーが三人集まって座っていた。おそらく、カノッサ機関の幹部なのだろう。遠隔通信機能を使って、一階の連中とコンタクトをとっているらしい。
「分かった、覇王と交戦を開始したということだな。戦況はどうだ? ……意外に、てこずっている? そうか……。万が一、広場を突破されたら、知らせてくれ。」
「おい、てこずっているとは、どういうことだ?」
黒装束の一人が、いらだった様子で尋ねる。
「何でも、覇王が廃課金ぶりを発揮して、体力全回復のレアアイテムを使いまくっているらしい。」
「なんと……! まさか、たった一人を相手に負けるなんてことはないだろうな?」
「心配ない。こちらにはまだ、最強の戦士『邪気眼の佐藤』もいる。仮に広場を突破されたところで、ヤツの守るエリアを通過することはできまい。」
「だが、用心の上にも、用心を重ねた方がいい……。ここにいる兵たちも、全員下に下げよう。」
カノッサ機関は、下のフロアで始まった壮絶な戦いに、人的リソースを集中させようとしているようだった。ということは、こちらの見張りが手薄になる可能性がある。
「……静久さん、覇王さんが早速、階下を騒がせているみたいです。もうちょっと人が減ったら、チャンスかもしれないですよ。」
「どういうことですか?」
「見張りの人間が、少なくなってます。二人で別々の方向に逃げれば、奴らをまいて、覇王さんの近くにいけるかもしれない。」
「そんなことが……。」
静久は、考え込んでいたが、少し引き締まった表情をした。
「でも、上手く行けば、覇王さんを助けることになるかも……。」
青海ひかるは、静久さんが前向きな気持ちになっていることが、嬉しかった。
「そうですよ! あんな自分勝手な奴らの好きにさせることないです。私達だって、油断すると思い通りにならないってことを、見せちゃいましょう。」
「……そうですね。私、いつも人の言いなりになって、運命に流されるばっかりで……。たまにはちょっと抵抗して、自分の手で切り開いていかなくちゃ、いけないかもしれない。」
静久は、少し顔を傾けると、青海ひかるにニッコリ微笑んだ。
「明日は入院ですから、その前に、ちょっと仮想空間の中だけでも、運動したほうがいいかもですね。」
「そうですよ、静久さん! こちらも、気持ちは戦っているつもりでいきましょう!」
青海ひかるは、こっそりグーを突き出した。二人はモヒカン達に見えないように、小さく握りこぶしをぶつけた。




