夜空と、月と、覇王
夜空には雲が、月をゆっくりと覆い隠している。覇王は、黒いマントをはためかせて、六本木ヒルズの広場に立っていた。目の前には、モヒカン頭の戦士達がざっと、四~五十人はいるだろうか。六本木ヒルズ名物の大きな蜘蛛のオブジェが、緊張感あふれる光景を見守っているようだった。
「……結局、来やがったか覇王。どこから嗅ぎつけたのか知らねえが……こうなったら仕方ねえ。行動を封じさせてもらうぜ。」
「貴様らと会話するつもりは、無い。」
覇王は、怒りに満ちた心を、なんとか制しながら答えた。既に、包帯を巻いた右腕がワナワナと震えている。
「シズクはどこにいる。今すぐそこをどけば、許してやる。」
「おっと、そうはいかねえんだよ。」
モヒカンの一人が、前に歩み出て言った。
「今日はカノッサ機関として、大事なプロジェクトも進行中だ。精鋭がここ、ギロッポンサーバに集結している。貴様を地面に這いつくばらせて、動きを封じ――ついでに、積年の恨みもはらしてやる。」
「どかないのであれば、無理にでも通るまでだ。」
「無謀だと思わねえのかぁ? この人数だぜ?」
覇王は、両腕を腰のあたりに引きつけて、うつ向きぎみに仁王立ちの姿勢をとった。ふう、と呼吸を整え、少し目を閉じた。
「――白く霞んだ世界で、俺を責める声がする。」
「はあ?」
モヒカン頭が口を歪め、相手を馬鹿にした顔で聞き返した。
「いつ、どんな場所であろうと……弱いものを虐げ、他人を踏みにじる人間は存在する。大事なのは、それにどう立ち向かうかだ。――俺は、あの時の自分を克服することで、人生を一歩、前に進めることができるのだろう。」
覇王は、ゆっくり呼吸を整えると、カッと目を見開いた。
「過去は、変えられない。貴様らのような、他人も変えられない。変えられるのは――今の己の行動と、未来だけだッッ!! 行くぞ!」




