今晩、やるべきこと
「覇王さん! 私、もう一度ログインして、シズクさんに伝えてきます! 『覇王は、きっとあなたに会いに来ます』って! 覇王さんは、会社内にトーギャンをプレイできる場所がありますから、そこからログインして下さい!」
こっちです、と先導するひかるに続いて、雁野がいそいそと部屋を出て行った。勢いよくドアが閉められる。
ポツン、と応接間のソファに取り残された南里は、これはどういうことなのかと、腕を組んで頭の中を整理し始めた。
自分の感覚が間違っているのだろうか? 彼らは一体、何を盛り上がっているのだろう。
雁野さんは――やっとの思いで出会えた恋愛対象が、入院して手術をすると聞いた。今晩じゅうに一目だけでも会って、会話するなり、励ましの言葉をかけるなりしようとしている。これは、まあ、分からないでもない。
静久さんは――やっかいごとに巻き込まれたが、会う約束をしていた雁野さんと会えないか、待っている。まあ、待つ必要もなさそうだが、待っても、変ではない。
青海さんは――前から思っていたが、明らかに、一人の会員に対して手間をかけ過ぎだ。新人だから、気負っているのだろう。ただ、それが会員に悪影響を与えているかというと、そうでもない。むしろ、雁野さんは積極的に行動しており、それが実を結ぶ可能性もある。
南里の脳裏に先ほどの、真剣そのものの雁野と、青海ひかるの表情が蘇ってきた。
――ええい、バカバカしい。バカバカし過ぎる。
ふいに、南里は昔の自分を思い出した。まだ青臭い若造で、プレミアム会員のために必死に仕事をしていた自分を。それから、それを振り払うように頭を振った。
……そういえば、今晩は一つやることがあったかな。
南里は、ゆっくりとソファから立ち上がった。




