世界の選択
「あー! 雁野さん! それに南里主任もいる! ちょちょちょっと、大変なんです聞いて下さい!」
「青海さん、どうしたんですか、会員様が驚きますよ……。」
「主任、すいません! でも本当に、ちょっと一大事なんです!」
青海ひかるは雁野の腕を掴むと、応接間に引き入れた。あまりの剣幕に、二人とも少し彼女のテンションについて行けずにいる。しかし、ひかるはそんなことにはお構いなしに、一方的に説明を始めた。
◇◇◇
「……それで、状況を整理すると。」
南里が、少しうんざりした顔で、話をまとめた。
「静久さんが、実は心臓病の手術があって、明日には入院してしまうと。だから、今晩どうしても、雁野さんと会って話をできるようにしたいと思っていた。それなのに、例の『カノッサ機関』がジャマをして、それができなくなっているということですね。」
「……ふ……ふふ……。」
聞き慣れない笑い声に、南里は驚いて雁野の方を見た。
ヘルメット・ヘアーの下の瞳が、怪しく輝いている。
「……それが、世界の選択か……。」
南里は、戦慄した。おやコイツ、ゲームにログインもしていないのに、覇王の人格に変わっとる。シチュエーションが、そうさせたのか……。呆然とする南里をよそに、雁野は、トーギャン内の口調で、青海ひかるに質問を始めた。
「それで、シャイニング★ガール。シズクが閉じ込められた場所は、六本木ヒルズの何階だ。」
「シャイニング★ガール……ああ、私のキャラクター名ですね。ええと、六本木ヒルズの五十一階に、『六本木ヒルズクラブ』と呼ばれる会員制クラブがあるんですが、そこに連れて行かれました。私は、ログオフしてゲームから抜け出して来たんです。」
「……ということは、そこにいけば、今晩、シズクに会えるわけだ。」
「でも、そんなことが可能なんですか?」
南里は、横で聞いていて、少し驚いて言った。
「カノッサ機関って、高レベルプレイヤーの集団だし、今回の場所には幹部連中もいるんでしょう。いくら覇王さんが強いと言っても、さすがに一人で乗り込んだら、返り討ちに会うんじゃないですか?」
雁野は――いや、今の人格でいうと覇王は――自信に満ちあふれ、どこか優しさをたたえた目で答えた。
「俺は、シズクに約束をした。彼女のことを、守ると。」
少しだけ、顔を南里と青海ひかるに向けると、決め台詞を言い放った。
「たとえ世界中を敵に回そうと、俺は、彼女を救い出す。」
もうだめだ、俺はこのノリについていけない。南里が頭を抱えて、ちらと青海ひかると見ると、彼女の瞳が、少しうるんでいるのが見えた。
――えっ、ちょっと、感動してる? マジで?




