表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/45

桐谷静久

 けっこう、築年数がたっていそうなアパートだな、と青海ひかるは建物を見上げた。駅から徒歩十五分の物件。そんなにアクセスがいいわけじゃない。ただよく見ると、中は手入れが行き届いていて、こぎれいな印象のするアパートだった。掘り出し物、と言われるような物件かもしれない。


 おそるおそる、インターホンを押す。


 「はい」


 「あの、ネットキューピッドの青海と申しますが、しずくさんのお部屋で間違いなかったでしょうか。」


 ああ、というリアクションの後、入り口のドアは開錠された。事前に教えてもらった通り、三階に上がる。


 あの後、青海ひかるはトーギャンにログインして、しずく――桐谷静久に会い、誠意を持って結婚相談所の説明をした。静久が押しに弱かったのも幸いして、なんとか、話だけでも聞いてもらえることになった。彼女の住むアパートを訪問することになったのは、特に苦にならなかった。むしろ、生活環境なども含め、静久のことが色々と分かるのではないか、と青海ひかるは考えた。


◇◇◇


 「すいません、今、お茶をお出ししますね。」


 「いや、本当にお構いなく! すいません、押しかけてきちゃって。」


 部屋に上がらせてもらった青海ひかるは、ちらちらと、あたりを観察していた。男っけのない、女性の一人暮らしという感じだ。必要最小限の狭い間取りに、生活用品が整頓されて並んでいる。いくつかの観葉植物があるだけで、特に目立つインテリアもない。彼女の内面を反映したような部屋だな、とひかるは感じた。


 ――それでいて、飾ってないのにキレイなんだから、ホント美人は得だよなあ。


 青海ひかるは、いそいそとお茶を出してくれる静久を観察しながら、内心ボヤいていた。 実際に会ってみると、桐谷静久はゲーム内と同じ、いやそれ以上に、きれいな女性だった。夏場なので、白いシャツにジーンズという姿だが、この「服装でごまかさない」シンプルな格好が逆に、彼女の清楚な女性らしさを引き立てていた。


 「それで、特別会員、という仕組みなんですけど……。」


 青海ひかるは、きちんと正面に座った静久を前に、少し緊張しながら説明を始めた。


 「料金なしで、お試しで一人か、場合によっては二人、お引き合わせするシステムなんです。本来は、これから会員になるかどうか、迷われている方に適用される制度なんですが……。」


 青海ひかるは、じっと静久を観察しながら、言葉を選びつつ続けた。


 「今回は、静久さんに特に、ご紹介したい方がいて、それでご案内したんです。ヴァーチャルゲーム内で、しずくさんに好意を持たれたようなのですが。こう言うと、もうお分かりでしょうか。」


 「いえ、ちょっと心当たりがなくて……。どなたでしょう……。」


 「しずくさんは、覇王さんをどう思っておられますか?」


 青海ひかるは、ズバリと核心に入った。


 「えっ……。覇王さんは、尊敬できる方ですけど。」


 「実は、覇王さんは当結婚相談所に入会されています。真面目に、婚活をされているのです。」


 「そうですか……。覇王さんが婚活を……。」


 静久は、少し驚いた、という表情でつぶやいた。それから、黒目がちの目を細め、人懐こい笑顔で笑った。


 「覇王さんなら、おつきあいの候補が、いっぱい見つかるでしょうね。」


 「いやー、それが、そうでもなくてですね」


 「え?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ