新米キューピッド
雁野さんは、絶対にトーギャンの中で知り合った女性をデートに誘った方がいい。雁野さんのシャイな性格の裏に隠れた、意外な男らしさが分かるのは、ゲーム内の「覇王人格」を知っているプレイヤーだけだ
ただし、そのまま交際することになっても、結婚相談所の成果にはならない。雁野さんが自主退会して、おしまいだ。
一方で、もしも南里主任が教えてくれたように、女性側にお試し登録の「特別会員」になってもらい、二人を引き合わせられれば、これは相談所が成果をあげたこととなる。
「今のところ、しずくさんとは、順調にコミュニケーションできている感じですか?」
「それが……覇王の人格の時は、妙に強気の態度をとってしまって……。もっと自分の弱い部分も含めて、本音で話したいのですが、なかなか上手くいかないのです……。」
そうだろうな、と青海ひかるは思った。覇王が、ムダにぶっきらぼうに会話している絵が、目に浮かぶ。
「だから、いつかトーギャンの外で、現実世界でもお会いして話してみたいのですが……そんなの、自分から、なかなか切り出せません……。」
「それで、ネットキューピッドの力を借りたいということですか?」
雁野は、応接室のソファに浅く腰掛けながら、うつむきがちに、少し照れたような口元をして頷いた。青海ひかるは、これはちょうどいい、と感じた。
「じゃあ、こうしませんか? 私がその女性と会って、短期の特別会員にならないか、提案します。紹介するのは、雁野さん、あなたです。相談所を仲介することで、男性と連絡先を交換する必要がないし、仮に合わないと思って『お断り』を入れる場合にも、相談所が代わりに伝えてくれるから、女性側にとっても安心感があるんです。これによって、当相談所としても、お二人がさらに関係を深めるお手伝いをできると思います。」
「はい……。お任せしますが、そうして頂けると、大変助かるのです……。」
「よし、分かりました! じゃあ私、トーギャンの中でしずくさんと話してみますね。もちろん、上手く行かない場合もあると思うので、その時はごめんなさいなんですけど。」
「もちろん、承知しています。どうぞよろしくお願いします……。」
雁野は、深々とおじぎをした。彼なりに、二人の関係を一歩前に進めようとしているのだ。そこには、確かな決意が感じられた。青海ひかるは、相談員として、ここは腕の見せ所だと思った。




