表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/45

奴の名は、覇王

 「喰らえ! エターナル・フォース・ブリザード!」


 男は必殺技の名前を叫びながら、グーでパンチを入れる。トーギャンにおいて、戦闘は基本、グーパンチで行われる。その際に、個人で考えた必殺技を叫ぶのは自由だが、ゲーム内で特に変わったエフェクトは、ない。


 要するに、単に殴っただけだ。


 バガン、という凄まじい音が周辺に轟いた。殴られたモヒカンは、三メートル向こうのビルの壁にめり込んでいた。壁にヒビが入る。


 「なんだありゃあ! レベル差が二十以上あるときに起きる現象だぞ!」


 「一撃で、体力がゼロになっている! 攻撃力が、異常に高い!」


 覇王と呼ばれた男は、両腕を腰のあたりに引きつけて、うつ向きぎみに仁王立ちの姿勢をとっている。それからふう、と呼吸を整えるとゆっくり左腕を前に突き出し、手のひらを開いた。まわりを取り囲むモヒカン達の一人に、狙いを定める。


 「……悪いな。こうなるともう、俺は手加減できん。」


 「やべえ! 何か知らねえけど、攻撃力も、人格も、全部やべえ!」


 「エターナル・フォース・ブリザード!」


 男が叫ぶと同時に、無慈悲にも、もう一人のモヒカンにグーパンチが叩き込まれる。反対側の壁に、体がめり込む。


 「エターナル・フォース・ブリザード!」


 また一人。


 「エタノ……ちがう、エタノールじゃない……ザード!」


 覇王は必殺技名を噛んでしまったようだが、慌てて訂正した。略称ではあるが、グーパンチは見事にヒットし、もう一人のモヒカンが壁にめり込んだ。


 「に……逃げろ! とてもかなわねえ! 逃げろー!」


 「悪の組織」を自称していた集団は総崩れとなり、散り散りに逃げていった。覇王の黒マントが、勝ち誇ったように風にたなびく。前髪を垂らしたまま、覇王はつぶやくように、壁にめり込んだモヒカンの一人に話しかけた。


 「貴様らは一つ、間違いを犯した。俺は今、もしも女性をデートに誘うことに成功した場合に備えて、新宿の街並みを観察していたのだ……。『理想のデートコース』を探すために、な。」


 覇王は、くるりと振り返った。背中越しに、決めセリフを放つ。


 「――貴様らは、俺の『婚活』のジャマをした。」


 ゆっくりと立ち去る覇王。その後ろで、壁に一定時間、めり込んでいたモヒカン達が相次いでドサ、ドサ、ドサと地面に崩れ落ちた。一人があえぐように、声にならない声を絞り出した。


 「し、知らなかった……。奴が覇王……。


  そして……。その覇王が婚活を始めていたとは……。」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ