白く霞んだ世界
覇王は再び、心の中で衝撃の波動を浴びていた。これは一体、どういうことだろう。こんな風に思ってくれる人も、いるんだな、と思った。
「実は私、生まれつき体が弱いんです。現実の世界では、あまりハードに動き回れなくて……。だから、せめてヴァーチャルゲームの中だけでも強くなりたい! と思って、このゲームを始めたんですけど。」
シズクが、少し困ったような、切なそうな表情で笑ってみせた。
「でもゲームの中でも、いつまでたっても低レベルで。お金もないし、装備も大したことないんですよ。えへへ、私、本当にどうしようもないです。」
――お金なんか無くてもいい、と覇王は思った。そんなことは、大した問題じゃない。
「なぜ、覇王さんは、強くなろうと思ったんですか?」
シズクが、何の気なしに尋ねる。そのとき覇王は、視界に映るいくつもの提灯の明かりが、目の前でぐらり、と揺れ動いたような気がした。嫌な夢の記憶が、蘇ってくる。
白く霞んだ世界。
学校の教室。
泣いている男の子。
――なぜ、助けてくれなかったの?
「……? どうかしましたか、覇王さん?」
「なんでもない。……俺が強くなりたいと思った、きっかけだったな。」
覇王は、額ににじみでた汗を悟られないように、少しシズクから顔をそむけた。
「小学校の頃、同級生がいじめられていた。あまり特徴のない子供だった。俺とは、特に仲が良かったわけじゃない。ただ、当時流行っていたキャラクターの消しゴムを、見せ合って遊ぶようなことはしていた。」
祭囃子が、遠くに聞こえる。覇王は、なるべく深刻な雰囲気にならないように、淡々と話そうと努めた。
「ある日、その子はいつものようにいじめられ、筆箱を踏み潰された。そこからこぼれ落ちた数個のキャラクター消しゴムは、取り上げられて、窓から遠くに投げ捨てられた。その消しゴムは……。その子が、とても気に入って、よく俺に、得意げに見せてくれていたものだった。」
覇王は、嘘をついていた。その子供は、覇王の親友だった。




