表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/45

覇王の記憶

 白く霞んだ世界。……ぼんやりと、何かが見えてくる。


 ――どうやら、学校の教室のようだ。床に文房具が散乱している。無残なありさまだ。


 気がつくと、その横で男の子が、しゃくりあげて泣いている。


 僕は――それを黙って見ている。そう、黙って。


 泣いている男の子が、ふとこちらを見る。その目は涙に濡れ、充血している。


 男の子が、おもむろに口を開く。


 「――なぜ、助けてくれなかったの?」


 そこでいつも、夢から醒める。


◇◇◇


 嫌な夢を見た、と覇王は思った。いつもの夢だ。こういう日は、ゲーム世界で縦横無尽に暴れまわりたくなる。


 だが、今日はトーギャンの特別イベントの日だった。「夏祭りイベント」。ヴァーチャル世界は昼から闇夜に変わっており、提灯や祭囃子の音楽が、にぎやかな雰囲気を演出している。8月のこのイベント期間内は、皆が仲良く祭りを楽しむため、殺伐としたバトルができない仕様になっていた。


 新宿・歌舞伎町のはずれ、道を一本隔てた向こうには、花園神社がある。


 この神社を忠実に再現した場所に、多くのプレイヤーが集まっていた。多くの屋台に群がるプレイヤーたち。行きかう人は皆、楽しそうにざわめいている。


 ――おや、あれは、カノッサ機関の連中じゃないかな。


 覇王は、人ごみをかき分けながら、遠くに見えるモヒカンの集団を眺めた。


 「……いや、本当だって、だからさあ、大量の麻薬を仕入れて――」


 何を話しているのか分からないが、とても楽しそうだ。こういう場所に、一緒に来ることができる仲間のプレイヤーがいて、いいなあ、と覇王は思った。覇王は、喧騒の中で一人、孤独を感じていた。


 ゲーム内で、これだけの攻撃力を手に入れても、倒せないものはたくさんある。たとえば「寂しさ」も、その一つだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ