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ひかるの名案

 「子供のころ、体育の時間と、算数の時間で人格が違う子、いなかったですか? あるいは、学校の友達と話す時と、塾の友達と話す時で、態度が変わるとか……。自分が輝ける場所ではアクティブになれても、自信を持てない場所では、引っ込み思案になってしまう。」


 「そういうこと、ありますね! 輝いている瞬間だけ切り取って、好きな人に見せられたら、一番いいのにって思います。」


 「……でも、それはそれで、後々破綻するおそれもありますよ。」


 南里は、しんみりしながら話した。


 「いまや日本の離婚率は、『3組に1組が離婚』する水準と言われています。ある年の離婚件数を、その年の婚姻件数で単純に割った数字なので、『その年に結婚した人が、将来的に離婚するかどうか』は分かりませんが、、、いずれにしても、この業界の人間でなければ驚くほどの高さです。」


 「ええー、そうなんですね……。」


 青海ひかるは、初めて聞いたという表情をしている。


 「私も既婚者ですが、やっぱり結婚すると、お互いダメなところがものすごく見えるんですよ。だから、あんまりいい所ばかり見て結婚しても、長続きしないです。良い時も、悪い時も両方見た上で、結婚するのが一番良いんですけどね。」


 「良い時も、悪い時もですかー……。」


 青海ひかるが突然、ハッと思いついたように言った。


 「そうだ、いっそのこと、雁野さんはトーギャンの女性プレイヤーと結婚しちゃえばいいんですよ。」


 青海ひかるは、名案だとばかりに明るい表情をしている。


 「最近はネットで出会って、結婚するカップルも増えてます。それなら雁野さんの、リアルとヴァーチャル、両面を見てもらえると思います。どうですか?」


 「うーん……そうですねえ……。」


 南里は、どう答えたものか迷ってしまった。そんなに都合よく、結婚を望む適齢期の女性が、トーギャンでプレイしているとも思えない。もっとも、やる気に燃える新卒社員・青海ひかるに、ここで否定的なコメントをしても、なかなか納得しないだろう。


 「雁野さんに、その女性プレイヤーを紹介しようとするなら……。現実に会って同意をとり、『特別会員』になってもらわないと、無理ですね。」


 「そっか! そうすればいいんだ、南里主任、ありがとうございます!」


 青海ひかるの輝く瞳を見て、南里は気圧されるのが半分、あきれるのが半分という気持ちだった。無謀なアイデアをあきらめさせようとした発言だったのだが、どうも不発に終わったらしい。


 ――まあ、これは、放っておけばいいだろう。おそらく何も起こらない。


 南里も、結婚相談所に就職するぐらいだから、もともと「人の役に立ちたい」という思いはある。ただ、長年、仕事を続けるうちに、結婚業界の現実と向き合い、無理なものは無理と、割り切ることが多くなってきていた。


 季節はいつの間にか夏になり、窓の外ではミンミンゼミが、やっとめぐってきた青春を謳歌していた。自分が新人の頃も、こんな風にやる気にあふれていたっけかな……と、南里はなんとなく考えていた。

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