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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

漆黒のキングサーモン

作者: しぐま

今日は高校の入学式、淡い期待を胸に僕は太陽に照らされた外を駆け抜けた。学校への通りの道、おばあさんが風呂敷の荷物を落としているのが目に映った。


登校時間にはまだ余裕がある。左手の腕時計で時刻を確認すると、足早におばあさんに駆け寄った。


数十分後。


「ありがとうねぇ…助かったよ。」


「その格好だと、名門の桜川高校の生徒さんじゃないかい?」


「はい。今日は入学式なんです。」


「そうかい。それはめでたいねぇ。でも桜川高校は規律には厳しいから気をつけるんだよ?」


「大丈夫ですよ。時間には余裕もって出てきましたから。ってあれ?!」


すぐに取り出せるように胸ポケットに入れておいた、生徒証明書が無くなっているのに気が付いた。


名門桜川高校では国のお偉いさんの親族も多く通っていて、セキュリティが厳しくなっているため、入場の際は生徒証明書の掲示が必要なのだ。


おばあさんと協力して捜索した末、なんとか見つけることが出来た。


「あっ!今の時間はもう8時半過ぎだけど大丈夫なのかい?」

おばあさんの唖然とした声にハッとした。予定時間の30分も過ぎていた。


「すいません!それじゃあ僕はお先に失礼します!」

僕は急いで学校の方へ走り出した。おばあさんは何も言わずに手を振っていた。




校門に入り、校舎の入口前にノースリーブのシャツに短パンを履いた筋肉質の男が立っていた。


あの見た目でも学校の区域内にいるということはおそらく学校の関係者なのだろう。


見た目からするに体育の先生ではないだろうか。


とりあえずここを通り越すにはあいつをどうにかしなくちゃいけない。登校時間は等に1時間近く過ぎている。


もし見つかったら入学式早々生徒指導室行きは逃れられないだろう。


ここは裏口から入るのが先決だろう。裏口に向かい、半開きになった窓を見つけると、腕を伸ばしてよじ登る。


体が半分程窓の内側に入ったところで、バランスを崩して室内に転げ落ちた。


強打した後頭部を抑え、うずくまっていると、廊下から聞こえる足音が段々と大きくなりドアがバタンと開かれた。


そこに現れたのは雪のように白い髪、ラピスラズリのように澄んだ蒼い瞳の少女で片目には眼帯をつけていた。


「いや…あの、別に怪しいものとかではなくてっ!そのっ!!」


遮るように少女は眼帯に隠された片目を抑え、こちらを指さして言った。


「お主が何者かなど等に知っておるわ。なにせお主は我が召喚の儀を行い、冥界サクリファスから呼び出したサーヴァントであるからな!」


「あの…さっきから何を言っているかわからないんだけど…」


「お主の真下をよく見よ。我が触媒を用い、貴様を呼んだのじゃ」


僕は足元を確認すると、床に白いチョークのような粉で、魔法陣のようなものが描かれ、ごく普通のお菓子が並べられていた。


いや…触媒ってお菓子じゃねえかよ!!


「これって触媒じゃなくてただのお菓子じゃない?」


「うるさい!うるさい!!これはそんなものではないわ!!」


「とにかくこれは太古から存在する聖なるものであるのだ。我がそういうんだから間違いないのじゃ!」


少女は左手の甲に描かれた模様をこちらに見せた。


「さぁ!我と契約し、この世界の理を解き明かすのじゃ!」


さっきから話がまともに噛み合わない。きっとこれはあれだ。中学生の頃に発症すると言われる中二病と言うやつだ。


それを発症すれば数多くの黒歴史を生み出し、自分には特別な力があるとか、選ばれたし者だと思い込んでしまう。


発症した多くの人は完治後にかつての自分を殴りたいと述べ、後悔とそれを思い出すだけで何度も自己嫌悪に襲われ、数多くの人々を苦しめたものだ。


そう、きっとこの女のコは入学式の連れ添いで来た子なのだろう。


「とりあえずパパとママはどこにいるのかな?お兄さんとは一緒じゃないの?」


少女はムッとした顔をして、背伸びをした。


「むッカー!!なんじゃお主!!我を馬鹿にしとるのか!!こう見えても今年で16歳じゃ!!」


「いや、どう見てもそうとは思えないんだけど…」


「それに去年と比べて3センチも伸びたんじゃぞ!!これは毎朝欠かさず牛乳を飲み続けたおかげなのじゃ!」


「そっか〜すごいね〜」


「ほんとのほんとなのじゃ!!」


「うんうん。分かった分かったから」


「嘘なんてついていないのじゃー!!」


「もう分かったから。今から君の両親に連絡するから番号教えてくれる?」


「ほんとなのに…ひっく…どうして信じてくれないの…」


スカートの裾を掴み涙声で俯く彼女を見て、最初から嘘をついていなかったことに今更気がついた。


「本当にごめん。君がてっきりふざけてるのかと思ってたんだ。」


頭を彼女の小さな背丈と同じくらいまで下げ、謝罪した。


少女は小さな声で言った。


「それなら私の言うことを一つ聞いてくれたら許してあげるのじゃ。」


「わかった。それで君が許してくれるならなんだってする」


「我のサーヴァントになるのじゃ」


「あの…それは流石にちょっと…別のことじゃだめかな…」


「でもお主、今なんでもしてくれるって言ったのに…やっぱり本当は嫌なのか…」


上目遣いをした彼女の目からこぼれ落ちる小さな雫を見て、彼女泣かせた自分に対する強い罪悪感に苛まれた。


僕はそれで彼女が納得してくれるならこのくらいなんとかしてみせようと思った。


「分かった。じゃあその契約引き受けよう」


「その言葉を待っておったぞ!!」


彼女の手をとり、その向日葵のような明るい笑顔を見たとき、僕はなんだかとても心地良かった。


そして、これが僕の破天荒な日常の始まりとなることをこのときの僕はまだ知らなかった。







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