act1 勇者召喚 01
ローレンシア大陸の西南部にあるいくつかの国のひとつとしてレムリア王国は存在していた。
気候は温暖で一年を通して過ごしやすく実りも豊かな国ではあるが大小様々なダンジョンを抱えているため突発的なスタンピードの発生という負の側面もあった。
故に魔道士ゃ騎士の育成、冒険者ギルドの経営には力を入れており、大陸でも五本の指に入る軍事力を抱えている。
レムリア王国第三王子アグレアスは魔道士と騎士双方を束ねる魔道騎士団の団長を昨年拝命したばかりであった。
拝命後の一番の大仕事として勇者召喚の儀式に参列するために王都にある創造主アステリア神を祀る神殿に参内していた。
儀式を行うのは大陸中央にあるアステリア教皇国から派遣された七名の枢機卿達。
そして立会人として勇者召喚の神託で指名された国の王族数名と大陸各国の大使達が参内していた。
召喚用の魔法陣の外側を囲うように立つ枢機卿の一人、リカルド・フォン・グロッケンバウムが代表として立会人達に向かって一礼した。
「神託により召喚されるのは三名。神器の呼びかけに応じた勇者の資質を持つ者二名と聖者、うち一名が転生者です。」
「転生者!?」
にわかに立会人たちが色めき立った。
召喚された者達は基本的に召喚した国の所属になる。
しかし転生者だけは例外だ。
召喚される転生者の多くは前世の記憶を持っていることが多い。
今まで召喚された転生者の五割は前世で生まれ育った国への帰還を望み、残り五割は自分の能力を活かせる場所への移住を望んだ。
転生者が持つ知識や技術の恩恵は計り知れない。
もし知識や技術を持たない子供だったとしても精霊や神々の加護のひとつやふたつ持っているのは確実であるし、運が良ければ特殊なスキルや称号持ちの可能性が高い。
「静寂に、時間です。」
リカルド枢機卿はそう言うと魔法陣の方へ向かった。
「来たれ創造主たる至高なる神の賜物、大地に恵みを」
リカルド枢機卿の言葉に合わせて枢機卿の一人が魔法陣へ土属性の魔力を流す。
「命の泉、癒しの風、浄化の炎、安息なる夜の闇、希望の光をもたらす者よ。」
水属性、風属性、火属性、闇属性、光属性、各々の属性に合わせて順番に魔力を流す枢機卿達。
「時の車輪は運命の糸を紡ぐ。」
最後にリカルド枢機卿が無属性の魔力を流す。
「神の子の血を継ぐ勇者の末裔、その魂の継承者、父であり母でもある創造主の御許、ローレンシアの大地への帰還を望み給う。」
枢機卿達の魔力を帯びてゆっくりと魔法陣が光り出す。
その光の中、神託通り三人の人影が現れた。