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ルーシーの結婚式 ①

 


 さて。それからはまさにとんとん拍子であった。


 ジヴとルーシーの婚約はすぐに結ばれ、教会に届けが出された。

 婚約公示期間が終わればすぐにでも挙式。その間、エリノアを含めるルーシーの身内は慌ただしく準備に追われた。


 だが、当のルーシーはといえば。

 永年の片思いを成就させた彼女は、ずっと気が抜けた風船のようにぼんやりと過ごしていた。

 ドレス選びや嫁入り道具選びなどやることは山とあるのに、令嬢はまるで魂が抜けてしまったように心ここに在らずな状態で周りの者たちを大いに心配させた。

 ジヴと共にいるときはまだいい。彼といる時は彼女はひたすら幸せそうで、目をキラキラ輝かせている。しかし……ひとたび彼と離れると途端に途方に暮れた顔をする。

 どうやら、ジヴと自分が婚約したことが未だ信じられないらしい。あまりに幸せすぎて夢の中にいるような心地なのか……最近のルーシーはいつも現実を疑っている。


『エリノア……? 私、本当にジヴ様と婚約したの……? え……? 私……本当にパパと離れて暮らすの……?』


 激しいファザコン嬢にそう何度も問われたエリノアは、これはまずいと不安に駆られた。

 ルーシーは見事にマリッジブルーにかかっている。

 ここは自分がしっかり支えてあげなければ無事に式を挙げられないかもしれない。それどころか、変にこのマリッジブルーをこじらせて『やっぱりパパと一緒じゃなきゃいや』とか言って結婚自体を取りやめになんて事態になったら──……。


 そう危ぶんだエリノアは当然奮起して。勇者業、王子の婚約者業の忙しい傍らで必死でルーシーを支えた。

 朝から晩までルーシーと一緒に過ごし、夜はヴォルフガングに見張ってもらう。魔将は渋っていたが、こういう悩み事は夜に煮詰まる。今、ルーシーを変に考え込ませてはいけない。

 そんなエリノアの甲斐甲斐しさはには、ルーシーの父であるタガートには義姉思いだととても感動され、あのヒステリックなルーシーの母が呆れるほどで。

 しかしそのおかげか、永きに渡りわだかまっていたタガート夫人とエリノアとの仲も少し和らいで。これは大いに将軍をホッとさせたらしい。


 ところがここで一つの問題が持ち上がる。

 ルーシーにつきっきりで王宮を出ることが多くなったエリノアに、案の定というか、なんというか……彼女の教育係ソル・バークレムが、非常にいい顔をしなかかったのである。

 エリノアを立派なブレアの妃にと意気込んでいる彼は、当然エリノアがそちらに時間を割き勉強が疎かになるのを良しとせず。いつも通りやいやい言いながら、タガート家へも同行しようとするのでエリノアは困り果てた。

 こんなに口うるさい教育係がルーシーのところについてきたら、令嬢のマリッジブルーにも変な影響を与えやしないか。エリノアは本当に困り、しかしブレアの婚約者としての立場上、彼を追い返すことも躊躇われたのだが……。

 しかしここではありがたい助けの手が入ってきてくれた。

 ソルのあまりの喧しさを見かねたエリノアの護衛騎士オリバーが、『まあまあまあ』とうまくソルとの間に間に入ってくれてしつこい書記官の猛攻を阻止。

 ブレアも王妃に掛け合ってくれて、それとなくエリノアの執務や行事への参加を休ませる許可を得てことなきを得た。


 ああそんなこんなで。本日なんとか無事ルーシーの結婚式が終わったわけである。式場となった城下の教会で、エリノアはホッとするやら感動するやらで感涙咽び泣きながら──……ハッとした。


「⁉︎ あれ⁉︎ な、何もトラブルが起こらなかった……で──ですと⁉︎」

「……ん?」


 ガーンとショックを受けて仰天した婚約者に。その着飾った肩を抱いて涙と鼻水をハンカチで拭いてやっていたブレアが不思議そうにぴたりと手を止めた。

 ……ちなみに。本日は、将軍タガートの娘の結婚式とあって、国王代理で参列した彼も軍服で正装している。エリノアはその麗しさに終始オドオドして──いや、今はそれは置いといて。

 ブレアの生真面目な灰褐色の瞳はどこかキョトンとしている。


「? 何か問題か? それで──良いのでは?」


 本日は特に麗しい愛しきブレアに見つめられたエリノアは、一瞬うっという眩そうな顔をした。が……その前に、王子に鼻水をふかれていることに動揺してほしいが……その辺りはもう二人は構わない間柄になっている。

 エリノアはおろおろして、周りを見ている。


「そ、そうなんです……けど……」


 エリノアがこうも困惑しているのには訳があった。





お読みいただきありがとうございます!

いつでもおろおろしているエリノアです。

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[一言] ルーシーもいよいよ人生の墓場に……
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