表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/23

ファザコンヤンキー令嬢の追及


「──エリノア、あんた……パパにジヴ様のことバラしたわよね……?」

「……ぅおう……」


 ずしり、と、背中に重石でも載せられたかのような気分だった。

 鷹の目で睨まれたエリノアは、まさかこのタイミングでその話を持ち出されるとは思っていなかったらしく、ギクリと身を強張らせた。

 それは突然離宮にやって来たルーシーにお菓子でも出そうと、エリノアが椅子を立ち上がったところのことだった。

 王妃がエリノアのためにしつらえた上等の長椅子に座ったルーシーは、まさに女王然として──いや、ヤンキー然として義理の妹を下から睨み上げる。

 美しく整えられた赤毛の前髪の下で、片方だけ上げられた眉。

 眉間にはくっきりとシワ。

 せっかく綺麗にルージュをひいているというのに丸切り威嚇するような形の口元。

 可憐な外出着を着ているというのに、高慢に組まれた両腕。

 刺すような視線は、もちろん責任を取るわよね? と、圧っしてくるようだった……。

 背の後ろには雷のように激しい覇気が見えるようで……。


「……私……カケラも忘れてないわよ……?」

「……え……と……」


 エリノアはそろり……と、目を泳がせた。

 なんだかんだあったから、てっきり忘れてくれたものだと思ったのに。が、再びずしりと「……エリノア?」と、低く呼ばれた瞬間。


「ご──ごめんなさい……っ‼︎‼︎」


 睨めつけられたエリノアは、観念してルーシーに向かって勢いよく身を直角に折った。

 状況が状況であり、仕方なかったとはいえ。やはり彼女が猛烈に愛し、愛しすぎてねじれきった偏愛を向ける父に、彼女の恋愛を勝手にバラしたのは申し訳なかった。

 ほとほと汗を滴らせながら、素直に謝罪する義理の妹に。尖った顔をしていたルーシーは、ふっと表情を緩める。


「……まあね、おかげで死ぬほど素敵なジヴ様と晩餐会でご一緒できたから、まあ、そこは感謝してもいいところなんだけど……」

「で、ですよね⁉︎ あの時お二人とてもいい雰囲気で──!」

「でもね。パパにはまだ知られたくなかったわ」

「…………で、すよね……ごめんなさい……」


 反抗期感の強いムッとした顔で、ルーシーは頬を膨らませている。これにはエリノアも頭を下げ続けるしかない。しおしおした顔で、ごめんなさいと弱々しく繰り返す義理の妹に、ルーシーは気難しそうに目を細めている。

 確かにジヴと親しくなれたのは嬉しかった。だが、大好きな父にそんな自分の恋愛事情が知られたのは、ルーシーとしては悩ましいことだった。


「おかげで反抗期第三期に入っちゃったでしょう⁉︎」


 腹立たしげに、頬にかかっていた髪を鬱陶しそうに払いのける令嬢に、流石にエリノアが突っ込む。


「……いや……姉さん……嘘言わないでよ……姉さんは、ずっと反抗期でしょう……」


 期とかないわよ……と、真っ当に指摘する義理の妹をスルーしてルーシー。


「おまけになんだか最近パパが変なのよ……気がつくといつも寂しそうな顔でこっちをチラチラ見ているの」

「寂しそう……?」

「こないだなんか、パパがうなされながら『もう嫁に行ってしまうのか⁉︎』──て、寝言を叫んでたって母さんが言ってたわ」

「…………え……?」

「おかげで母さんにも問い詰められたわよ。『ルーシー⁉︎ 今度は何をやったの⁉︎ 白状なさい!』……ですって。なんで何かやった前提なのよ……。まったく母さんたら……」


 ……まあ……それは思い切り令嬢の普段の行いがアレなせいだが……。

 ともかく。

 不満げにブツブツ言うルーシーを見ながら、ここでエリノアはハッと察した。

 つまり──義理の父タガートは、愛娘がジヴに向ける恋心を知り心を痛めている。いや……この段階で娘が嫁いで家を出る心配をするのはいささか先走り過ぎだとは思うが……どうやら自分が養父に要らぬストレスを与えてしまったらしいと知って。エリノアは頭を抱える。


「や、やってしまったです……。そ、そうか……タガートのお義父様……」


 ルーシーはタガート将軍の一人娘である。

 そりゃあ、父が娘の恋愛に気が気でなくても無理のない話。エリノアはしょっぱい顔をする。


「わ、私、早くに父が亡くなったので、そういう父心にはからきしで……あああ、タガートのお義父様に申し訳ないことを……」


 だが、ブラッドリーと自分とに置き換えて考えてみれば少しは理解できる。

 自分だって、もし愛弟ブラッドリーが恋をしたら、気が気でないどころか、ハラハラしすぎて思い切り若い二人(?)のストーカー化し、お節介ババアになること間違いなしだ。

 心配でもルーシーに口出ししないだけタガート将軍のほうが大いに寛容だと言える。

 けれども将軍がうなされているというのなら、彼が心痛に苦しんでいるのは確かな訳で……。

 そりゃあ激しいファザコンのルーシーが怒らないはずがなかった。

 恐る恐る義理姉の顔を見る、と……。いつの間にか立ち上がっていたルーシーは顎を上げ、目を細めて彼女を見ていた。


「ヒィっ⁉︎」






お読みいただきありがとうございます。

頑張って楽しいお話にできるよう励みますので、ぜひぜひブックマークなどよろしくお願いいたします!( ´ ▽ ` )

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] エリノアさんに色々危機が!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ